「陛下。お話の最中に申し訳ございません。特殊部隊隊長、リア・ダイモンズが参りました。」

「ガーネット様! スタイナー様! ……フライヤ様!」

番兵に導かれてリアとミノンが謁見室に入ると、見慣れた三人が立って会話を交わしているところだった。扉の方を向くと共に揃って驚きの表情を浮かべる。

「まあ、ミノン……! リア、連れてきてくれたの?」

「ええ。私は付き添いですので、席を外しますね。じゃあ、ごゆっくり、ミノンちゃん。」

そう告げると、リアは扉を閉めがてらその向こうに消えた。

「ミノン……久方振りじゃの。達者なようで何よりじゃ。」

三人が一様に硬かった表情を綻ばせる。小さく会釈すると、ミノンは笑みを浮かべた。

「お久しぶりです。」

「どうしたの? そのフード。」

「リア様が、あまりお城で目立たないようにと……貸してくださいました。」

「まあ、そうなの……。会いに来てくれて、とっても嬉しいわ。」

一瞬だけ過らせた痛みを掻き消すように、ガーネットが笑顔になって言う。

「ミノン殿、もう、その……お加減はよろしいのですか。」

「はい……お陰様で、すっかり。」

あまりにも突然かつ不自然な訪問であるにも関わらず、誰も進んで理由を問うことはしなかった。ただ沈黙の中でミノンを見守る。話そうとする気配があったからだ。

「あ……あの。」

やがて詰まりながら口を開いた彼女に、三人は受容する雰囲気を崩さず耳を傾けた。背中を押されるようにミノンが言葉を続ける。

「私、……これから頑張って、この世界を糺します。……今日は、それを申し上げに参りました。」

思いもよらぬ発言に、三人は揃って目を見開いた。それが何を意味するのか。恐らく現在各地で起きている異変を鎮めるということだろう。しかし、これまでそれを告げに来たことなどあっただろうか。

「……ミノン?」

「たくさんたくさん、今まで力を頂いて、だから私は決心することができました。ありがとうございます。」

ミノンは笑顔で言葉を切ると、深く頭を下げた。

「では、ごきげんよう。」

三人の顔を見てから返事も聞かずに飛び出す。まるで何かを急ぐようだった。その顔に今や笑みはない。

「……ミノンちゃん、大丈夫?」

扉の裏に控えていたリアが、ミノンに気遣う声を掛ける。ミノンはしばらくの沈黙のあと静かに肯定した。

「……あとは厨房ね。」

リアが短い溜め息を吐き、顔を上げる。そのまま二人は厨房に足を向けた。同じように出会う場面の直前でリアが姿を消す。

「クイナ様……。」

「オヨ? ミノン! ひっさしぶりアルね〜!」

ミノンの存在に気づくなり、クイナは洗い物の手を止めて駆け寄って来た。エプロンで手を拭う。

「ご飯は食べられてるアルか?」

「はい。」

クイナらしい気遣いの詰まった質問に、ミノンは穏やかに答えた。解れた笑みを見せる。食べる必要のない身と知りながら、クイナは常にミノンの食を気にかけていた。心に元気がある時は食べられる――それを知っているのだ。

「あ、せっかくだから、ちょっと待ってるアルよ!」

クイナは身体の向きを反転させると、ドタドタと奥に向かって走っていった。やがて冷暗所らしきところから一皿の料理を取り出して戻ってくる。

「新作のお菓子アル! 果物であまーくした、自信作アルね!」

「まあ……! 頂いて、よろしいのですか?」

「もちろんアルね!」

それは小さな器に入ったムースだった。添えられていたスプーンで上品に掬い、ミノンが口にする。

「美味しい……。」

口いっぱいに広がった優しい甘さに、ミノンは素直な笑みを見せた。手が進むのを見て、クイナが満足そうに笑う。

「良かったアル! ……ご飯を食べて、おいしいって思えること……これ一番アルよ。それなら、元気でいられるアル。」

「はい。」

「……今のミノンは、ちょっぴり元気がなさそうアルが……きっと大丈夫アルね。おいしいって、言ってくれたアル。」

鋭い言葉にミノンは一瞬身体を強ばらせたが、すぐに笑顔に戻った。クイナに器を戻してから一礼する。

「突然押し掛けて失礼いたしました。……ごちそうさま、とても美味しかったです。」

「もう良いアルか? また来るアルね! 待ってるアルよ。」

「……はい。……では、ごきげんよう。」




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