「良い? ミノンちゃん。これから私が何を言われても、上を向いたら駄目よ。」

城門の陰でミノンに白魔道士のフードを目深に被らせると、リアは髪を結い直しながらそう言った。彼女の手を引いて歩き出し、城へと至る舟に乗る。

「……っ! 貴様は……!」

「あら、カサブランカ卿。久方ぶりです。」

城の廊下ですれ違うなり咎めるような声を出した男に、リアは口端を上げた美しい笑みを浮かべて敬礼した。それとは対照的に、男の方は苦虫を潰したような顔をしている。

「……何故貴様のようなモノがここにいる。この国も墜ちたものだな! 異形を城に招き入れるとは……!」

「これから陛下に謁見いたしますので。一緒にいらっしゃいますか?」

リアは白地(あからさま)な敵意にも取り合わず、笑みと共に小首まで傾げた。しかしその表情はどこか薄べったく、瞳には寒気すら感じさせる冷たい光が宿っている。

「……結構だ。……忌々しい、<紫>の悪魔め! どうせ、その横の者も、奇怪な術で操っておるのだろう!」

「ふふ、そう思うのなら、お気をつけください。失礼いたします。」

少しの揺れも見せずにそう切り返すと、リアはミノンの手を握り直して歩き出した。ミノンに合わせるべく歩調もゆったりと落としている。それから何人かの貴族に会い――畏怖され嫌悪されたが、リアは全く動じなかった。まるで世間話でもしているかのようだ。

「……ひどい、……どうして、あんなことを……!」

廊下の陰でリアが足を止めた時、ミノンが小さく叫ぶ。何故リアが同行を申し出たのか。謁見の権利所持以外の理由を、ミノンは痛いほど感じていた。自ら注目と罵詈雑言の対象になることで、傍らの人間への関心をなくし――守ろうというのだろう。

「平気よ、もう慣れっこだから。そういう人達なのよ……自分と違うモノが嫌いで、同じモノで固まるのが好きなの。何百年もね。……ミノンちゃんには居辛い空気かもしれないわ。ごめんね、変えるだけの力がなくって……。」

「いいえ、私は……私は、……リア様が……。」

理由のない畏怖、根拠のない中傷――大切な人を侮辱される痛み。それは彼女にとって耐えがたいものだった。悲しみと、彼女にはひどく珍しい怒りとを瞳に宿し、リアの顔を見上げる。

「私のために怒ってくれるの? ……ありがとう。私は良いのよ……何人かの大切な人がいて、その人達がわかってくれるなら。」

静かにそう言いながらミノンのフードを直すと、リアは優しく頭を撫でた。

「それは、私も……。」

「でしょう? だから、気にしないで。」

リアが翳りなく笑う。彼女らはとても似ているのだ。無理解の中で、理解者を求め――自らも他人の理解者たろうとする。その道を辿る先駆者としての自覚もあったのだろう。リアは「大丈夫」と、強調するように付け足した。




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