「はい、お帰りなさい、ミノンちゃん。」

背凭れから身体を起こすと、リアは柔らかな表情を浮かべてミノンの肩を撫でた。

「すっかり元気になったみたいね。」

「はい、あの……サラマンダー様が、私に力を下さったんです。……リア様、あの地に導いてくださって、ありがとうございました。私は……守る気持ちを、思い出すことができました。」

「私の力じゃないわ。乗り越えたのは、ミノンちゃん自身よ。今すごく良い瞳をしてるわ……本当に良かった……。」

先程までの気だるげな様子から一転、心からの慈しみを露にする。ちらと目線を横に逸らすと、再びミノンに微笑みかけた。

「ところでそちらのお客様、私まだよく知らないの。サラマンダーもいることだし、紹介してもらえないかしら?」

「あ、はい。」

振り返った彼女が目線で呼び掛ける。近づいてきたユウキの手を取ると、花が綻ぶような笑みを浮かべて向き直った。

「優輝と言います。私の……昔からの、友達です。」

「昔って?」

「あ、えっと……私は、この力を生まれつき持っていたのではなくて……18の時に得ました。優輝と、一緒に。……その時より前から、友達なんです。」

「そう……よろしくね、ユウキ。」

リアがにこりと笑って答える。サラマンダーは何の反応も見せなかった。ただ腕を組み壁に寄りかかっている。生い立ちを鑑みれば反応しなければならないという意識自体が希薄なのだろうが、反応する気もないのだろう。

「私は、……あら?」

「…………。」

リアがしかけた自己紹介をやめる。ミノンもユウキの手を離して辺りの気配を探り始めた。

「この気配……ジタン様に、エーコ様……ビビ様?」

「門の辺りね。何かミノンちゃんにご用かしら……ちょっと迎えに行かせるわ。」

リアがパチンと指を鳴らし、人型の使役を呼び出す。話が早かったのか、すぐに使役は3人を連れて戻ってきた。エーコがミノンの姿を見るなり飛び付いてくる。

「ミノン!」

「エーコ様……ビビ様も、どうなさいました?」

「あのね、リンドブルムが……ヘンなの! 赤っぽくなっちゃって、でも黒いモノもいて……モンスターもいっぱい出てくるし、あばれまわってるし……!」

懸命に訴えられた異変に、ミノンの表情はすっと固くなった。穢されたのはアレクサンドリアだけではなかったのだ。

「……おねえちゃん……エーコね、アレクサンドリアに来てからは平気だけど、リンドブルムでは具合わるかったんだ……どうしてか、わかる……?」

「ビビ! よけいなこと言わないで!」

「……リンドブルムの地脈が歪み……穢れという悪しきモノも多く撒かれたのでしょう。力を宿す者は、歪みや穢れに弱いのです。強い魔力を持つエーコ様が体調を崩されても、道理というもの。」

ミノンがしゃがんでエーコと目線を合わせる。真摯な瞳だった。そこに迷いや弱さは見当たらない。

「私が、穢れを必ず祓います。……どうか、ご安心を。」

しっかりと言い切ると、ミノンは宥めるように笑いかけた。しばらくの間をおいて立ち上がり、ユウキの方を向く。

「優輝。教えて、知ってたの?」

「まあ……いずれ、ってことはな。」

「……そう。」

「ミノン、そいつ誰だ? ミノンの知り合いか?」

フェンリルで駆ける二人に道中で出会ったというジタンが、ユウキの方を見て言う。あれだけ弱っていたミノンが信じられないほど回復していて嬉しい分、それをもたらしたであろう存在が気になったらしい。ミノンの口調の違和感ももちろんあるだろう。怪訝そうな顔で首を傾げている。

「はい。私の……昔からの友人です。」

「優輝っつうんだ。よろしくな。」

「昔、って……もしかして、こっちに来る前のか?」

「はい。……以前、お話しした……対の者です。私の力を……中和する……。」

「へえ……よろしくな。」

ジタンがそう返した時、ずっと黙っていたサラマンダーが口を開いた。その目線はユウキに向かっている。

「……おい。一つ良いか?」

名前も呼ばずになされた質問。しかしユウキは間をおかず振り返った。まっすぐに見返す。

「あいつの対と言ったな。――この世界に、何かしに来たのか?」

それはミノンを理解しているからこその疑問だった。彼女の素性と認識が結び付いていなかった年少の3人が、ひどく驚いた顔をする。世界を変えるために訪れたミノン――その対の存在。そのことに気づけば、そんな推測を導き出すのは容易だった。もともと同じ考えを持っていたリアも含め、ユウキに目線が集まる。

「……悪いけど、美音にしか言えないな。」

ユウキは殆ど変わらない調子でそう返しただけだった。一転して辛そうな顔になったミノンが、胸の前で手を握り合わせる。

「優輝……何か、しに来たの……?」

「……ごめんな……遊びに来られたら、一番良かったんだけどな。……気づいてないわけじゃ、なかっただろ?」

「…………うん。…………気づかないふりで、……信じたかっただけ……。」

俯いたミノンの頭を、ユウキはそっと撫でた。

「ちょっと隣を借りても良いか? ……すぐ、終わるからさ。」

「どうぞ。」

リアが許可を出す。ミノンが一礼するのを待ち、ユウキは彼女の手を引いて部屋を出た。




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