翌日、ミノンはリアのもとへ向かうことになった。何か彼女ならわかることがあるかもしれないと思われたからだ。彼女が会いたがっていることもあるだろう。一晩経っても状態は変わらず、ミノンの表情は沈みきっていた。一人で守る決心をした後では余計に辛いものがあるのだろう。今の彼女は人に守られるしかないのだ。

道中も平穏無事にとはいかなかった。まるで何かに集められたかの如く、城下は魔物が跋扈する街になってしまったのだ。従者のように隣に付き添うサラマンダーが、敵が現れるたび得物を振るって霧散させる。ミノンには、ただその背を見つめることしかできなかった。力による補助がない状態でユニコーンを扱うのは危険だからだ。

彼の背に彼女が守られる構図は以前と然程変わらない。しかし戦闘を終える毎に痛みも顕な表情をする彼女を見て、彼は身の内にある気持ちを覚えていた。

守りたい、と。

身体的に守ろうと感じたのは初めてであったかもしれない。これまで守ろうとしたのは心であって、体ではなかった。それほどまでに彼女は強かったのだ。

しかし今の彼女は脆かった。敵から身を守る術を持たず、また攻撃することもできない。戦いから守ろうと思えば思うほど――戦いに巻き込んでしまう。しかし、だからこそ守らなければならない。彼はそう考えていた。いくら敵が湧いて出ても、彼女に傷一つ付けさせることなく淡々と屠る。

「ミノンちゃん!」

軍支部にミノンが顔を見せるや否や、走りよってきたリアは彼女を勢いよく抱き締めた。あれだけ気にかけていながら、1ヶ月以上も話せていなかったのだ。姿だけを見たあの日からも半月以上経っている。

「よく、戻ってきてくれたわね……良かった、……ありがとう……。」

細く温かい腕の中、ミノンは何も言うことができなかった。しばらくして、堰が壊れたように涙を溢す。初めて泣くことができたのだ。――自らに、近いモノに触れて。

「リア様、……リア様っ……。」

「……ミノンちゃん?」

「リア様、……わた、し……。」

泣きじゃくりながら伝えられた異変に、リアはその紫の瞳をゆっくりと大きくした。

「……力が……?」

「…………はい、……わた、し……まもりたいのに、まもりたくて、だから、ひとりでいるって……決めたのに……。」

震える声でミノンが心の内を紡ぐ。離れている間になされた決心に、リアはそっと桃色の唇を噛んだ。――変わらないのだ。変わったように思えても、これでは。

「っ……なのに、使えない……まもれ、ないんです……。」

「……そう、……そうなの…………辛いわね……。」

ひどく優しい声色の陰ですっと眉を顰めると、リアは気配に異常がないことを確かめた。力の波動は確かにそこにあるのだ。慰めるように手を動かしながらしばらく瞑目し、それから少しだけ強く力を込める。

「……辛いこと……いっぱい、あったのね、きっと。もしかして今、ミノンちゃんの中の……小さなミノンちゃんが、悲鳴を上げているのではないかしら。辛い……って。」

言い終えたところで、リアは拘束を緩めてミノンの目を見た。にこりと柔らかく微笑む。

「……アレクサンドリアの水源、覚えてる? あそこに行ったら、どうかしら。きっと……ミノンちゃんの力になると思うの。行ってみない?」

理由は伏せられていたが、ミノンは素直にそっと頷いた。今までリアの言うことに間違いはなかったからだ。リアが頼むより前に、サラマンダーが歩み寄ってくる。

「……それじゃ、よろしくね、サラマンダー。」

どこか満足そうな顔をしたリアに、彼は短く溜め息を吐いた。




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