スタイナーの勧めで、ミノンを含む4人は一泊することになった。とにかく戦うには休養が大切だと、何もせず過ごす。そうしてそれぞれに思いを抱えて迎えた、翌朝のことだった。

食事も摂らず一晩中部屋にいたミノンは、背中に悪寒を覚えて目を開けた。窓の外を見れば、くすんだ空気は昨日と変わらない。しかし何か異変を感じ、窓の金具に手を掛けた時――背後の扉が開いた。

「……いたか。」

ノックもせずにサラマンダーが入ってくる。彼女が思わず窓際に寄ると、彼はその場で立ち止まった。

「……魔物が大量に出た。ジタンはもう軍の奴等と向かった。……俺は行く。おまえは、どうする。」

低い声でそう問う。あくまで彼女の意向を尊重しようというのが、皆に共通する認識なのだ。

「…………私は、……私は……。」

その優しさを、彼女は痛いほど感じていた。逃げたらいけない。しかし、使えば――また傷つけるのではないか。義務感と恐怖の合間で揺れ動く心を抑えるように、胸に手を当てる。服の中で銀の鎖が鳴った。それとほぼ同時に、向かって右の壁にある窓の硝子が割れる。

「……この程度の雑魚、おまえの力を借りるまでもない。下がってろ。」

突っ込んできたのは群れをなす魔物だった。彼が躊躇うことなく斬り込んで行く。いかに優れていると言えども数には対処しきれず、次々と彼の肌には傷が刻まれていった。彼女の脳裏に赤の光景が閃く。真っ暗な屋敷。流れる鮮やかな血。その中には、彼の傷もあった。自分の力が、彼に付けた。

彼が隙を見て傷をチャクラで治していく。それでも間に合いはしないようだ。彼女は忌まわしい記憶を想起すると共に、その最後に微かにある温もりも思い出していた。幾度も暗闇から救い出してくれた温かさは、あの日ですら抱き締めてくれたのだ。何もわからなくなったあと、どこか遠い感覚の中で。

時間の経過と共に敵の数は着実に減っていったが、彼の動きもまた鈍くなっていった。黙々と力を振るう彼は微塵も辛さを見せないが、一人で相手取れる限界なのだ。いったい、ここで何をしているのか。彼女が自問する。

失いたくない。
傷つけてしまうかもしれない。

前に出した手は、震えていた。

「……離れてください!」

精一杯の大声でそう叫び、手を掲げる。彼は一瞬だけ目線を寄越すと、素早く敵の中心から離れた。

「水の気よ!」

彼女の呼び掛けに答え、どこからともなく水流が起こる。――その、はずだった。




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