間に割って入ったのは、ずっと無言でいたサラマンダーだった。彼女からジタンの手を剥がす。ジタンは些か睨むような目を向けたが、彼は冷静にこう続けた。

「……リアが……強い魔力を持ったアヤカシが、こいつの周りに呪(まじな)いを掛けている。ケガレの影響を受けねえようにな。」

「…………。……本当か?」

「嘘を吐いて何か得があるならそうするが?」

「……わかった。」

ジタンがゆっくり瞬きする。

「ミノンが元気でいられるなら、それで良いんだ。」

細い肩に一転して優しく触れると、柔らかく微笑みかけた。彼女が俯くように頷く。しかし次の瞬間、身体の芯まで揺らすような咆哮が響き渡った。

「……っ! なんだ!?」

「また魔物です!」

彼女が構える。間もなく空から巨大な竜が現れた。周りには従うように小さな翼竜が幾つも飛んでいる。穢れに狂い――魂の気配に凶暴化した竜の眷属。地に降り立つと同時に、それは荒々しく地面を震わせた。

「……随分と、やりがいのありそうなやつらのおでましだな。」

ジタンが抜刀しつつ臨戦体勢をとる。軽口を叩きながらもその表情は真剣だ。残る男二人もそれぞれ得物を構えた。ミノンは抜刀せず纏う気を高めていく。

言葉を交わすことなく、彼らは自然と役割分担をしていた。空中戦に強いジタンが先攻し、アルテマウエポンを振るいながら親玉の翼を傷つけていく。その背中を狙おうとした翼竜は飛来したウイングエッジに切り裂かれた。地上戦に特化しているスタイナーは高度の下がった親玉の脚を狙い、着実に体力を削っていく。

その背後に守られながら、淡々と詠唱を紡いでいたのがミノンだ。小さな身体からは想像もつかない強大な気を練っていく。やがて発動したのは風を操る術だった。

「風よ、貫け!」

鎌鼬のようになった空気が最後の言葉と共に解き放たれる。すぐさま凄まじい絶叫が響き渡った。次々と翼竜の姿が消えていく。瞬く間に敵は親玉を残すばかりとなった。とどめとばかりにひときわ強力な一迅が襲いかかる。

異変が起きたのは、その時だった。

それまで恐ろしい程に完璧だった術の照準が、外れたのだ。まるで暴れる力の波に押し動かされてしまったかのようだった。彼女が目を見開いて全力を込め、無理やり標的に命中させる。

見事に心臓を貫いたその刃と共に、竜は跡形もなく霧散した。嘘のような静けさが包む。止めていた息を吐くように、固かった空気は徐々に解れていった。張りつめた糸に似た緊張を残しながらもみな得物を納める。彼女も少しずつ気を緩めていった。樹上にいたジタンが軽やかに着地する。

彼女がその足音を聞いてから短い悲鳴を上げるまで、そう時間はかからなかった。

「ジタン……さま……。」

ジタンの腕に大きな裂傷を見つけたのだ。鮮やかな血が流れ出ている。――戦闘に傷は付き物だ。普通の傷だったならば、彼女もこんな反応を示さなかっただろう。動揺しながらも治療の術を使ったに違いない。

もし、その傷から己の力の気配がしていなければ。

暗い屋敷。

叫び声。強い憎しみ。抑制の利かない自我。溢れる力。力がつけた傷。流れる血。大切な人の、血。

そのアカは、記憶の底にこびりついていて。

「ミノン! このくらい、何ともない! 平気だよ、ちょっと掠っちまっただけだ!」

サラマンダーに止血を施されながら、ジタンが叫ぶ。しかし彼女は虚ろな瞳を彼に向けたまま、微動だにしなかった。何を見ているのか、皆目見当がつかない。何を――考えているのか。

「ミノン!」

やがて彼女は、その場に頽れた。





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