「私に?」

「ああ。……クイナと、女王からだ。」

彼が荷物から取り出したのは、小さな紙箱だった。紐を解けば中から数枚のクッキーが顔を覗かせる。

「……おまえに、食ってほしいと。」

「まあ、嬉しい……!」

彼女は年相応に顔を綻ばせると、大事そうに一つ口にした。柔らかな甘味が口いっぱいに広がる。心を安らがせるのは味だけではないだろう。このクッキーは彼女の状況を聞いて心を痛めたガーネットが、少しでも元気付けたいとクイナに相談して共に作ったものだった。物資が不足する中、砂糖を多用する菓子は高級品だ。しかし話を聞いたクイナは、真っ先に彼女が好きな甘い物を作ることを提案したのだった。二人の気持ちが籠っていることは言うまでもない。

「……おまえ、……。」

「はい?」

「…………なんでもない。」

幸せそうに口に含む彼女を見て、彼は何か言いかけたが……否定するように飲み込んだ。――幸せなのか。軟禁にも近い状態で、自由の欠片もなく、何も得ずに過ごして……。そう問うことは、してはならない気がしたのだ。

「……また、来る。」

彼女には決して告げていないが、彼も暇な訳ではなかった。各地では魔物による被害が相次いでいる。原因不明の災害も多い。どうしても人手が足りないのだ。早くも腰を上げた彼を見て、彼女は一転して泣きそうな顔になった。まるでしばらく会えなくなる人を見送るかのようだ。

「……また、っ……今度はいつ、いらっしゃいますか……明日は、いらっしゃいますか?」

「…………ああ。……また明日、来る。」

立ち上がってなお低い位置にある小さな頭に手を優しく乗せると、軽く撫でながら彼はそう言った。――また明日。そう言って別れる習慣を持たない彼には、その言葉はひどく空虚なものに思えた。彼にとって明日の保障などどこにもないに等しいからだ。

「はい。」

しかし彼女にとって、その言葉は何より嬉しいものだった。また明日会える。その希望が心を支えるのだ。

「また明日、お待ちしております、サラマンダー様。」

「……ああ。」




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