「……あ、こら!そんな動いたらダメだってば!」
「………いい加減、鈍る。」
あの傷を負ってから5日。日毎に驚くほど体力と機動力を取り戻したサラマンダーは、リアの言いつけも聞かず身体を動かす様になっていた。端から見れば健康体そのものの動きだ。
「貴方ね……少しは人の忠告ってものに聞く耳を持ちなさいよ。……まあ、貴方の回復力が驚異的だったのは認めるけど。野生の獣だってびっくりだわ。」
半ば呆れた様に溜め息を吐くと、リアは持って来た昼食をテーブルに置いた。見た目は悪いが懸命さの伝わる――手作りの料理。味は見た目ほど悪くないので、サラマンダーも文句を言わずに食べていた。――あくまで、見た目ほど……だが。
「……なあに、その物言いたげな目は。ご飯の味だったらわかりきってるから言わないで頂戴。」
「………いや。………。」
自然と向かい合って食べる中で、視線に気づいたリアが不貞腐れる。それを否定すると、彼は食べる手を止めた。
「…………言いたいことあるなら、お口で言わなくっちゃわかんないわよ?」
「………。………あいつに………会いに行く。もう、その体力はある。」
「……#NAME1#ちゃんに?」
「………ああ。」
低い声ではっきり肯定した彼を見て、リアが大きな溜め息を吐く。いつか言い出すとはわかりきっていたが……あまりに早くはないだろうか。しかしあれこれ言葉を尽くしたところで、この男が聞き入れるわけがなかった。
「………。……ここで、“会いに行きたい”じゃなくて言い切るのが貴方らしいわよね。……どうせ止めたって聞かないんでしょうが。」
「……よくわかってるな。」
彼が一瞬くっと口端を吊り上げて笑みを浮かべる。それを見てまた一つ溜め息を吐くと、リアは少しだけ真剣な表情になった。
「………良いことだと思うわ……#NAME1#ちゃんのためにも、貴方のためにも。でも、どうするつもり?#NAME1#ちゃんがいるのは城の地下……それも地下も地下の、最深牢よ?もともと異端の魔道士を閉じ込める所だったから、牢だけじゃなくて辺り一帯に魔封じは掛かってるし、怨念とかそういうモノもいっぱいあるし……何より、今は警備が強化されまくり。一体どうやって会いに行くの?」
「……それを考えるのが、潜入の主眼だろうが。」
「………そうね、貴方なら潜入なんて慣れっこよね。……でも、今回はお城よ?流石に勝手が違うんじゃない?」
「…………何か言いたいなら言え。」
「あら、ばれちゃった。」
真面目な様子から一転、少々戯けた顔をする。そして何故か内緒話でもする様に顔を近付けると、リアは潜めた声で言った。
「ここは、私の腕の見せ所かしら。……周りにバレない様に魔封じを解くことは流石にできないし、私は魔封じの中には入れないけど……看守とか衛兵は、何とかしてあげる。あと、貴方が地下に入る時の仕掛けもね。」
「……そんなことができるのか。」
「任せなさい。こう見えたって、それなりの魔力はあるのよ。」
彼女は自然に“それなり”と曖昧にしたが、それが桁外れの力であることは彼も身を以て知るところだ。もちろん彼自身の治癒力も尋常ではない……しかし彼女の力なしに、この回復はあり得なかっただろう。
「……知っている。……俺を治したのはおまえだ。」
「魔力だけじゃないわ。ちゃんと、心も。だから、貴方に力くらい貸すわよ。」
「………。……そうか。」
「ありがたく思ったんならありがとうって言ってくれるとありがたいんだけどね。……ま、いっか。で、いつ行くつもりなの?」
「……今にでも。」
「……………。」
そんな答えを予期しなかったわけではない。だが余りにもきっぱりと言い切られ……リアはどこか、全身から力が抜ける思いがした。
「………。……えっと、とりあえずご飯食べてからで良いかしら。私けっこう重労働だから。」
「………。……ああ。」
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