「強大な力を持ち、あの様な事件を引き起こしておきながら……個として尊重しろとは無理なお話ではございませんか。」
容易に納得する者達ならば、わざわざベアトリクスもこうして集めはしなかったのだ。一人の発言を口切りに、ざわめきが大きくなる。
「またいつ暴走するかわかったものではない……その様に危険な存在を、野放しにしろと言うのですか。」
「“ご友人”を思いやるお気持ちはお察しいたします。しかしながら、私情を国政に持ち込まれては困りますな。」
「――言葉を慎みなさい、カサブランカ卿。ガーネット様を侮辱するのですか。」
勢いに乗じた発言を、ベアトリクスが見過ごすことはなかった。発言主が決まり悪そうに顔を背ける。
「……ベアトリクス、構いません。……これはわたくしの――王としての判断です。彼女には心があります。ならば人として接すのが、道理ではありませんか。彼女にこれ以上、辛い思いをさせれば……暴走をも、招きかねません。」
「………彼女に、心があると?あれ程の惨事を起こしておきながら。」
「……あの惨事も、元はといえばあの者達が……彼女の大切な人を傷つけたから起きたこと。それは心ある証にはなりませんか。」
最もな言い分に、しばらくその場は沈黙した。しかし暫くして……最初に説明を迫った男が口を開く。
「……なるほど確かに、心はあるかもしれませんな。――して、それはまともであると?」
その言葉に周囲もいたく同調する雰囲気を見せた。乗じる様に、彼女を一番に恐れている老爺が騒ぎ立てる。
「まともな人間が、あの様な殺戮を生みますかな!しかも、たった一人でやったのですぞ、あの規模を!一家の殲滅を!なんとおぞましい……!」
「ネモフィラ卿。ガーネット様の御前と心得ての言動ですか。……慎みなさい。」
「………。……ふん、妖し子風情が偉そうに……。」
「……ネモフィラ殿。その様な言葉、見過ごすことはできません。……撤回してください。」
悔し紛れの侮辱にも、ベアトリクスは全く表情を変えなかったが……ガーネットは有無を言わさぬ強さを持った口調でそう言い切った。――少々異質なこの従姉は、生まれた時から常にこういった蔑視に晒されているのだ。二人の女王の側近となった今も、それは変わることがない。
「………。………申し訳ございません。」
女王の命なら仕方ないとでも言いたいのか、彼は不服そうに口を動かしただけだった。ガーネットが小さく息を吐く。
「……皆さん、わたくしに時間をください。わたくしは――。」
「お話の最中、失礼いたします。」
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