一頻り宥める様に撫でたあと、サラマンダーは白い頬に手を当てて顔を上げさせた。

「……おまえは、いつも……前を見て、──笑っていた。……何故……今は、泣いている?」

顕になった今も潤む瞳をしっかり捉え、言葉を探しながら問う。いつもと違う……いくらか鋭さを抑えた金色の瞳に見つめられ、リアもいつもの様にはぐらかすことはしなかった。

「………っ………前が、……見え、ないの。今までだって、見えてたわけじゃない……でも今は、ほんとに、ほんとに……なにも、見えなくって…………どっちに、進めば良いのか、……わからない……。」

次々と雫を溢しながら震える声で言う。彼はそれを聞くと、息を吐いてまた彼女の頭を撫でた。

「…………そうか。」

しばらくの沈黙のあと、ぽつりと返す。やがて一度目を俯せ、徐に口を開いた。

「――泣くより、前を向いていろ。思うまま、進めば良い。」

リアが幾度か瞬く。再び開かれた金色は、元の鋭さを宿していた。そこに怒気はない。しかし強者の持つ、独特の──気迫の様なものがあった。

「貴方に……教えられるなんて。」

どれだけの時が経っただろうか。リアがやっと微かな笑みを見せ、それから涙を拭う。

「………どういう意味だ。」

「……そう、……悩んでも、泣いてても……何も、始まらないものね。できることをやるって、最善を尽くすって、……決めたんだったわ。」

失敬な物言いだと彼は不服そうだったが、リアは気にすることなく続けた。いつかに似た遠くを見る様な目をした後、しっかりとサラマンダーに視線を移す。

「………大切なこと、忘れてたのね。……ありがとう。私、……私──がんばる。」

須臾の瞬きの後、紫は確かな光を取り戻した。白い手が薄蒼い肌に触れる。

「……そうね、まずは貴方のこと、元気にしてあげなくちゃ。ありがとう──サラマンダー。」

もうその瞳が迷うことはなかった。








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