彼はそう口にすると、鋭い光を宿すその双眸を俯せた。そしてやはり動かし辛そうに、徐に目元へと手の甲を宛がう。

「だから、望んでいた。あいつと共に……あいつの傍に、いることを。……人との利害の一致も、あった。知りたい……そんな、ガキみたいな……好奇心も、あった。だが、……あいつが、いなくなって……別人の様になって、暴走、しているのを見て……やっとわかった。俺は、何より、あいつを──失いたく、なかったんだ。」

まるで独白の様に──確かめる様に。彼は自らの心の内を吐露していった。それは淡々と、口下手な調子で……しかし、一つ一つ探しうる言葉を懸命に並べて紡がれていく。

「………留めておきたい……ただの、醜い、執着かもしれない。……だが……。」

「……っ……。」

彼が詰まった言葉を切った時、リアはそっと彼に触れた。そのまま厚い胸板へと右の頬をつける。──武芸を思わせない滑らかな指は、小さく震えていた。

「ごめんね、……ごめんね、元気にしてあげられなくて……ごめんね、……ミノンちゃんを………守れなくて……。」

「………リア?」

開(はだ)けた胸にポタリと冷たさを感じ、サラマンダーが手を退ける。だがその呼び掛けに彼女は応えなかった。震える声で、静かに言葉を紡ぐ。

「私が、……私のせいだ……貴方に、無理させて……でも、結局、何もできなかった……何も、何一つ私は、……できなかった……。」

「──リア?」

明らかな異常を察しながらも、それを言葉にすることは能わなかった様だ。彼は頭だけを起こすと、再び彼女の名のみを口にした。だがまるで聞こえていないかの様に、変わらず返事はなされない。

「………私は……私には、やっぱり……なにも、できないのかな……ごめんなさい、ごめんなさい……私が、私が、……私のせいだ……。」

絞り出される言葉達。そこに普段の明るさは見る影もなかった。声を詰まらせながら、謝罪と自責を繰り返す。いつも真っ直ぐだった紫の瞳は、彼に見えないところで──揺らいでいた。

「……私が、私、」
「リア。」

彼女の言葉を遮る様に、サラマンダーがゆっくりと口を開く。

「……何故、その様に──すべて、背負い込む。」

「………え?」

掠れた声で、だがはっきりと彼はそう口にした。意表をつかれたリアが顔を上げる。彼を見据えた瞳は……異界を感じさせる色をしていた。彼がやっと合った目線をしっかり捉える。

「……おまえ、に……何が[視え]ているのかは知らん。おまえが……何を、見ているのかも。だが、何が[視え]ていたとしても、何を見ていたとしても……。」

彼は一度言葉を切ると、左腕を使い──リアをそっと抱き寄せた。

「──おまえが、泣く必要は、ない。」




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