「……──……。」

「………サラマンダー?」

「……、……──リア?」

うっすらと金色の目が開く。

「っ……!そうよ、……私よ、わかる……っ!?」

「………。……リア、……。」

「……っ……!……っ、……よか、った……ぁっ!」

寝台に横たわったサラマンダーに、リアは感情が爆発した様に泣きながら縋り付いた。目線だけで彼女を視界に捉えながら彼が動揺する。──別人だったのだ。今までのどこか掴めない……飄々とした姿からは想像もつかない。

「………っ、リア、……どうした……?」

「……っ、……ばかっ!あなたが、死にかけるから……っ!ばか、どんだけ、しんぱいだったと思ってんのよっ!私のせいで、私のせいで、……死んじゃうかと、おもって……!ばか……っ、……むりさせて、……ごめんなさい……っ……。」

掠れた声でなされた問い掛けに、リアは涙にまみれた罵声と──謝罪をぶつけた。掛ける言葉を失ったサラマンダーが、上手く動かない腕にゆっくりと力を籠める。

「………、……泣くな……。」

「……っ!」

「………嫌だったか?」

「う……ううん……。な、……泣くななんて、ムリに決まってるじゃない!貴方が、……無茶するから……!」

ぎこちない動きで子供にする様に頭を撫でられ、リアは最初こそ顔を上げて驚く様子を見せたものの……不快ではないのか、少しむくれた様な顔で俯き受け入れた。涙声ながらも、バカなことを言うなとでも言いたげな強気の調子で言い返す。

「………ここは………。」

やがてリアが涙顔を拭い出した頃、サラマンダーは辺りを見渡して呟いた。

「ここは私のお家よ。軍とは関係ない、私のお家。普段は誰も入れないんだけど……色々と術かけてるからね、ちょうど良いなって思って、連れて来たの。」

だいぶ落ち着いた様子でリアが答える。上品な色の調度品……静かな空気。術がかかっていると言っただけあり、まるで現実から切り離されたかの様に不思議な雰囲気を湛える住まいだった。

「……あいつ、は………──ミノンは?」

「………。」

その名前が口にされることはわかりきっていたのだろう。リアは特に動揺することなく……静かに目を閉じた。少し間をおいてから開き、しっかりと彼を見据える。

「…………アレクサンドリア城の、地下……深くにいるわ。」

「………地下……深く?」

「………。……ミノンちゃんのやったことは……いくら相手が女王暗殺未遂犯とはいえ、一大貴族を滅ぼしかねなかった──大虐殺よ。そして彼女は貴族達にとって、どこにも属さず、得体の知れない危険分子……そんな存在を、奴等が放っておくと思う?」

少しの間のあと、彼は事情を察した様だった。天井を仰いでゆっくりと目を閉じる。やがて長い溜め息を吐くと、ぼそりと呟いた。

「…………獄に、繋がれているのか。」

「ええ……その通りよ。」

「……………。」

「っ!?ちょ、ちょっと、何するつもり!?──っ!」

無言のまま身体を動かそうとしたサラマンダーを、白く細い手が留める。必死になる余り魔法で押さえつけられ、彼は反射的にリアを睨んだ。

「……ごめん、でも、だめよ、……だめ、貴方、すごく弱ってるの。動いちゃだめ。」

実力行使に出たことを申し訳なく感じているのだろう。息急き切りながらも、リアは一つ一つ大事に懇願する様に言った。しばらくの沈黙のあと、サラマンダーが舌打ちして脱力する。

「………。」

「……どうして、そんな無茶、しようとするの?自分でもわかってるでしょう?どれだけ、自分が弱っているのか……。」

「………。……わかったんだ。」

しばらくの沈黙のあと、彼は吐き出す様にぽつりと呟いた。じっと捉えてくる紫から目を逸らす様に、ゆっくりと右を向く。

「……──何が?」

リアは少し迷ってから、殊更大事に疑問符を声にした。サラマンダーが大きく息を吸い、長くかけて吐く。

「…………ずっと、わからなかった。何故、あいつと共にいたいのか。何故、何も出来ないのに……傍にいてやりたいと、思うのか。何故、こんなにあいつを──大切に思うのか。」

「………その、こたえが──出たの?」

「……いや……それは、今もわからない。だが……一つ、わかった。──あいつを、失いたくない。」



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