無事に時空を越えて着地したのは、蔦の蠢く<イーファの樹>の内部だった。<クジャ>を揺り起こす。
「……クジャ様……起きて下さい。」
「…………ミノン? ……天、使……。」
「……何を、言っているんですか……まさか、寝ぼけてますか?」
「違うよ……あぁ、僕の天使……!」
X-M天使
「クジャ様? 違います、私は……。」
「違わないよ! あの日、僕の上に、空から降って来たじゃないか……!」
──きゃあぁあぁあ……!
──……!?
──痛ったたた……もう、また失敗しちゃった……。
──……なんだい? キミ……。
──ひゃぁ! ひ、人……! ど……どうしよう……!
──……どうしようって……取って食ったりはしないから安心しなよ。僕はここで考え事をしていただけだ。
──考え、事……。
──そう……気に入らないガキのことをね。……キミ、どうして降って来たんだい? その羽は……亜人かな。
──羽っ!? あ……! ……その、ちょっと失敗してしまいまして……。
──失敗……ねえ。
──……あ! あなた、手の甲に血が……! ごめんなさいっ! さ、さっき、私が落ちて来た時……っ!
──そんなヘマ、僕はしな……!?
──はい、終わりです。
──……どうして、僕に回復術を?
──どうして、って……また傷口が開いたら大変でしょう? 傷つけてしまったのは、私ですし。
──……もう、行ってしまうのかい?
──はい……私、行かなきゃならない場所があるので。本当にごめんなさい。
──……キミ……名前は?
──え? ……美音、です。ごきげんよう。
──……行ってしまった……。……ん? これは……羽? ああ、あの子が落として行ったのか……そうか、あの子は空から落ちて来た、天使なんだね……!
「思い出しました……確かに一度、私……落ちてます。あなたの所に……。」
「そう……そして、僕に優しくして、帰って行った。……僕はあの時、初めて……人に優しくされたんだよ。とても卑怯で、つまらない僕に……優しくする人は……誰もいなかったから。」
<クジャ>が――クジャ様がすっと私の頬に手を伸ばし、触れる。急いでその手を取り、回復術を掛けようとしたけれど、クジャ様は緩く首を横に振った。思わず手を強く握りしめる。
「だから君は、僕の天使なんだよ。……僕は幸せ者だねぇ。この世で一番、大切な天使に看取られながら……逝けるなんて……。」
「なっ……何を弱気になっているんですか!」
強制的に術を発動させる。反応はほとんどなかった。生きる意思がないのだ。それでも諦めることはしたくなかった。生きなければ、見えないものもある。
「助けられる命を目の前で失うのは、もう絶対に嫌です……!」
気を高めた時、上にある気配を感じた。叫び声がだんだん近づいてくる。まるで落ちてくるようだ。
「それに、黙って逝かせるつもりのない方がもう一人……いらっしゃるようですよ。」
呟きながら、浮遊の術で受け止める。何となくこうなる気はしていたけれど……本当に来るだなんて。
「クジャ、ミノン!」
「石もないのに……一体どうやってここまで来たんですか?」
規格外の生命力に心底驚く。だからこそ、この人が命運の鍵になり得たのだけれど。
「んなもん気合いさ! 二人とも、大丈夫か!?」
「はい。……では、ここから脱出しましょう。」
クジャ様の手首を握る。
「なっ……この蔓はどうすんだ!?」
「……私に、任せてください。」
力を確かめる。まだ大丈夫だった。絶対にできると確信する。
「我が力よ、我らを安寧の地へ導け!」
大丈夫。
だって私は、神からの遣いだもの。
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