沢山の人々の助けを借りて<イーファの樹>上空の歪みに突入すると、記憶の積み重なる場所に導かれた。



X-K記憶の場所



「……だってさ。」

<ガーランド>の残留思念が話しかけて来た内容を、ジタン様が語ってくれる。曰く、ここは記憶の集まりである「記憶の場所」であるらしい。

建物の様な、そうでない様な場所を幾つも通る。その度に、皆様には何かが起こっている幻覚が見えたそうだ。しかも最初は自分の記憶を見るだけだったのに、他人の記憶まで見えたらしい。

(……私には、何も見えない……。)

少し不安になったが、心配することはなかった。ジタン様が聞いた話によると、その幻影はクリスタルを通じて見ている世界の記憶らしい。クリスタルはその世界の人々の記憶が蓄積される核だ。私に見えないのは当然だろう。

「な、なぁ……一度休まねえか?」

「……うん。」

「ガーランドの奴も趣味悪ぃな……疲れた。」

皆が座り込む。嫌な記憶も見えるらしいから、心が疲れてしまったのだろう。

「ミノン……おまえ、さっきから何も言わねえけど……大丈夫か? 何かふさいだりはしてないよな?」

「あ、はい……大丈夫です。ありがとうございます。……その……何も見えていませんから。」

「へっ……!? あ、そうか……クリスタルの記憶は、この世界で暮らしたヤツのだけ……ミノンは異世界人なんだっけ……。」

「はい。」

異質な出自を素直に受け入れてもらえた喜びを改めて感じる。どんな力なのかすら――もう隠す必要はないのだ。

「何も見えてないのか……若干うらやましいぜ……。……さ、みんな。先へ行こう。」

「……ええ。」

しばらく歩くと、周囲の景色の雰囲気が変わった。辺り一面が真っ白で、床は存在するみたいだけれど壁は認識できない。

「何だ? 今まで一本道だったのに……出口がねえぞ?」

何故か感じた既視感に、辺りを見渡していると……どこからか怒声が響いて来た。

[なっさけない! 惰弱な男共が!]

硬く無機質な……そう、まるで生まれ育った世界の道路の様な景色の幻影が見え始める。

[そんなんで私に勝とうなんて、百年早いんだよっ!]

叫んでいるのは、男の子と取っ組み合いの喧嘩をして……しかも勝ったらしい女の子だった。小柄で、長い髪を一つに結っている。……あれ?

(……っ!?)

あまりの恥ずかしさに座り込む。顔を思わず覆った手の間からは、とても見覚えのあるものが見えた。

[お、覚えてろ!]

[ちょっとは男らしいとこ見せろ! 捨て台詞まで軟弱だな!]

背を向けていた女の子が振り向く。――<神>の遣いながらに失神するかと思った。

その子は……紛れもなく、中学生の私だったのだ。

[……これで良い?]

[ありがとう! ほんっとに頼んで良かった!]

遠くに固まって立っていた女の子達が口々に感謝の念を述べる。懐かしい、同級生達だ。

[ううん。またしつこくされたら言って。じゃあね、また明日!]

[うん! ホントにありがと!]

帰って行く同級生達と入れ替わる様に、道の向こうから誰かが来る。よく見覚えのある懐かしい姿――制服姿の、優輝だった。

[……なあ、お前。]

その言い方と展開にはっとする。自分の思い出の一部と合致したからだ。

[……何?]

[俺、優輝って言うんだけど。俺のことわかるか?]

[…………向の、教室の?]

[あぁ! わかるのか! ……でさ。お前……一体どうしたんだ?]

[……何が?]

[俺……小さい時、近所に住んでたんだ。美音っていう、人見知りで物静かで可愛い子の近所に。お前は覚えてねえかもしれねえけど……話したことだってある。顔といい名前といい……お前、あの美音ちゃんだろ?]

幻影の中の私の表情が変わる。あの時の私は、変わりたくて仕方がなかったのだ。弱い自分が――嫌いで。

[……そんな昔の話を持ち出して……一体どういうつもり?]

[どーもこーもねえよ! お前にはケンカなんか似合わねえ。普段は物静かなのに……どうしてこんなことしてんだよ!]

[……友達が絡まれたからよ。……悪い?]

[そりゃ悪かねえよ。けど力に訴えるなんて……! ……責めるわけじゃあねえけどさ……何でこんなこと始めたんだ。]

[……友達を守れるなら、何でも良いのよ。]

この時の気持ちは今でもよく覚えている。別に乱暴をしたかったわけではない。鍛えて丈夫になってはいたけれど、元は身体が弱かったから、思うように行かない部分もあった。それでも……傷ついてでも、守りたかったのだ。

[……私は脆弱だったから、みんなに守ってもらって育った。だから私は、今度は自分が誰かを守りたいの。その為の力を手に入れる為に、努力だってたくさんしたわ。……それだけよ。]

[…………力、手に入れたか?]

[わからない。でも……ほんの少しだけど、強くなったとは思う。お兄ちゃんにケンカのやり方を教えてもらったら、男の子だって怖くなくなった。しゃべり方だって覚えた。もう、昔の弱い私とは違うの。……あの私は、忘れて欲しいくらいよ。]

[嫌だ。……俺は……あの時のお前の方が良い。]

優輝は変わらないな……と思った。私はこんなに変わったというのに。

[……ふざけないで。冗談じゃないわ。]

[冗談は言ってない。……俺がお前の代わりに戦うからさ。]

[……はぁっ?]

[俺は……お前に力を使わせるくらいなら、全部俺がやったって構わねえ……そう思ってるんだ。……いつかお前が誰よりも強くなったとしたって……お前は、美音だから。だから……もう……こんなことは、やめてくれよ。]

白い光で場面が変わる。顔を上げられなかった。まさか、あの僅かな時間が、この世界で「暮らした」に入るだなんて……。

「……あの……ミノン?」

「み……皆様……見なかったことにしてくださいっ!」

嫌な思い出では決してない。守られてばかりだった私が、守ることの喜びを初めて手に入れた時だ。……でも……とても、恥ずかしかった。

「どうして? かっこ良かったわよ!」

「ダ……ダガー様……?」

再び記憶が映る。今度は通っていた高校の廊下だ。次はいったい何を見せられるというのだろう。

[優輝!]

長い髪を二つ結びにした私が駆けて来る。すっかり優輝と仲良くなった……16の頃だ。

[おはよ、美音。今日も可愛いぜ? ……いや〜、すっかりあの噂は聞かなくなったな。]

[ちょっ……恥ずかしいよ! てゆーか優輝でしょ! ケンカするなって言ったの!]

[まあな。でもマジ完璧じゃん。]

[私は元々こうなの! ……あれは絡んで来たのをキュッと絞めてただけだもん。]

[はは……でも俺は嬉しいんだよ。美音が、俺が言った通りになってくれたのが。]

[もう、優輝ったら!]

幻影が消え去る。何だかとても疲れてしまっていた。立ち上がるしかないと身体に言い聞かせて立ち上がる。

「ミノン……。」

「……何だか出口も出て来たみたいですし、先に行きましょう?」

「ああ……そうだな。」


最初のはすごく恥ずかしかった。……けど……。

懐かしい風景。二度と戻れない日常。

もう少し、見ていたかったな。



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