トランスした<クジャ>の攻撃を防ぎきれなかった私は、目覚めた後……ついに、ある決意をした。



X-J身の上話



ジタン様に頼み、皆をインビンシブルの広間に集めてもらう。その揃った顔を見ると少しだけ口を開くことは躊躇われたが……後戻りはしたくなかった。

「……お集まり頂き、ありがとうございます。」

「どうしたんだよ、改まっちゃって。」

「……今まで、素性の知れぬ私と共にいてくださったこと、無理に訊かずにいてくださったこと……本当に感謝しています。」

皆がそれぞれに驚いた様子を見せる。共にいることで、その優しさを知った。優しさをもらって――隠さずにいる強さを得た。だから、話すことに決めたのだ。私が何なのか。何故、ここにいるのか。

「私のことを、全てお話しすべき時が来ました。もしよろしければ……お聞きいただきたく思うのです。」

「……ミノンの話……聞きたい。わたし、ずっとこの時を待っていた気がする。」

ダガー様の言葉に、皆が揃って頷く。説明は大変だけれど、まだ緊張するけれど、全て話すと思えば心は軽かった。

「……私は……およそ21年前、生を受けました。ここではない世界の、ごく普通の家庭に。」

「異世界……!? テラじゃない世界か?」

「はい。世界は幾つも在るのです。繋がったものは稀ですし……他の存在を認識しない方のほうが多いですけれど。」

しかし私は違う。今まで幾つもの世界を旅してきた。ライラに創られた<神様>の意思に従い、創世の主であるライラと共に。

「遙か過去、創世主……私がライラと呼ぶ存在が……。」

「……ライラ、って……まさか、あの子?」

「はい。彼女が全ての世界の元となるものを生み出した存在です。かつて……名も実体もない、ただの意思であった時に、次々と理を作っていった。彼女自身も、混沌の中で重なりあった偶然から生まれた魂です。全ての始まりと……言える存在でしょう。」

混沌は均衡を保ちながら、いつしか0ではなく負の1と正の1になった。その正の要素がライラの力なのだ。そしてそれはどんどん大きくなって……今、私に宿っている。

「……あれ? ライラさんはミノンおねえちゃんの前世……ってことは……。」

「私はその<最初の魂>を持って生まれました。つまり……ライラが生まれ変わった存在です。」

詳しい事情は知らないが、一度ライラは存在としての<死>を選んでいるのだ。そして少しの間、魂として人間に宿り生きる道を選んだ。何も知らない、私として。

「……創世主とやらの生まれ変わり、か……随分と大層な肩書きなことだ。」

「それが理由で、私は18の誕生日に、魂に宿っていた創世主の力を目覚めさせられ……人間としての時を止められました。私はその時から全く成長せず、体感時間で3年以上……18のままなんです。」

「じゃあ……普段、飯あんまり食わねえのは……。」

「……いらないからです。睡眠も、気力を回復する分しかいらない。」

「そんな……。」

「私も最初はとても戸惑いました。……いえ、今も戸惑っているかもしれない。18年間ただの人間として生きて来たのに、余りにも唐突な話です。」

人間として当たり前のことが奪われて、初めてその大切さに気づいた。摂食より、睡眠より、何より――心の存在が一番大きかったけれど。

「力を得た時、私は人として生きられない運命を伝えられ……感情の起伏に従って力を暴走させてしまいました。それからも、何度も、何度も……。そして、感情は許されないのだと思いました。まるで……生きながらに、死んでいる様だと……。」

「……どうして……人間、だったのかしら。」

「詳しくは知りません……ただ、<感情>に惹かれた気がするとライラは言っていました。」

力と心は密接に関係する。恐らくそのためだろう。……何と、皮肉な話だろうか。

「……それから、私と対の者はそれぞれ世界を巡り始めました。神の眷属……遣いとして。」

「対の者……?」

「……私の力は<光>……再生や前進を司ります。そして、対の者の力は<闇>……破壊や静止を司ります。どちらもお互いになくてはならない存在です。」

「じゃあ、ミノンと同じくらいの力を持つ人が、あと一人いるの?」

「はい。」

優輝のことを思い出す。<闇>を司っていながら、優しく眩しい人のことを。

「神の、遣い……それで、我々の世界に来たのか? ……人間として……では、なくて?」

「……はい。……私は、<クジャ>や<ガーランド>の行いの為に歪んだこの世界の命運を見定める為、来たのです。本当は……終わらせることもできました。全てを壊して。だから、私は必要なのか知りたかった。そして……降り立ちました。――あの日、ジタン様の下に。」

今でも鮮やかに覚えている。世界の命運の鍵としてしか認識していなかった、ジェノムに出会った日。――彼は私に、笑いかけたのだ。

「けれど私は、あなた方と触れ合い……忘れていた感情を少しだけ思い出しました。そうして、だんだん……犠牲を増やしたくない……多くを助けたい……一人の人間として。そんな気持ちを思い出したんです。」

「だから、ブルメシアで別行動を……。」

「あの時ジタン様にいらないと言われたら、私は<神>の遣いとしての私に戻るつもりでした。見定め、滅ぼすと。」

「……ジタンは……。」

「私に、行動してほしいと言いました。」

ジタン様が驚いた顔をする。自分がそんな立場にあったとは知る由もなかっただろう。私と出会ってから、ずっと訊かずにいたのだから。

「けれど、私自身も……あなた方を守ることを望んでいたのです。……私は、人間でいたい……人として生きたい……その望みとは真逆に、人としての感情を忘れていました。<心>を失くした私は、もう人間とは言えなかった……けれど皆様は、私が<神>ではなく、人でいる為に必要なこの心を取り戻させてくださいました。だから私は今……人に戻ることができたのです。」

「仲間としてとーぜんのことよ! それに、ミノンはなぁんにもエーコ達と変わらないじゃない! ただ、魂……? が、ちょっと特別なだけでしょ?」

「はい。」

心に温かさが溢れる。

ああ……やっと、全てを話すことができた。




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