「……あの馬鹿が……。」
X-Gパンデモニウム
初めて来た場所のはずなのに、ライラは迷わず足を進めていた。自分ではない人の行動を、自分の中から見るというのも不思議な感覚だ。
(……どこに行くの?)
「少しやることがある。……その為に行く所がある。」
(それって……創世主として?)
その言い方に、ライラの役目を感じ取る。この世界だけではなく……全ての世界を創ったらしいのだ。もちろんライラが認識できる<全て>であって、本当に全てかはわからないけれど。そんな彼女には、今までも沢山の縁みたいなものがあった。そのために身体を取られたのもこれが初めてではない。自分の代わりに作ったという<神様>や、生まれ変わりの私では力不足だと感じる時は、自ら行動するのだ。
「まあな。……アレも、少し役割に縛られ過ぎたかもしれん。」
(……なにか創った存在がいるのね?)
「流石だな、良い勘をしている。」
(……付き合い長いからね。……で……ここ、何なの? お城?)
「ああ……やはりな。お前達、何をしている?」
ライラが声を掛けたのは、扉の前で話し合っているエーコ様とビビ様だった。話し方を私に合わせる努力が全く見られない。これだから苦労させられるのだ。
「きゃっ、誰!? って……ミノン!?」
「おねえちゃん! 具合は大丈夫なの?」
「ああ。お前達……あの猿に閉め出されたのか?」
「猿って……ジタン? うん……そうよ。エーコたちのことコドモあつかいして! 一人で、先に……ってミノン!? あ……アナタどうしちゃったの!? 頭打った!? い、いま、ジタンのこと……!」
案の定、飛び付いて揺さぶられる。驚くのも無理はないだろう。今はライラが私の姿をして喋っているのだ。しかもライラは口が悪い。
「……も、もしかして……ライラさん?」
「ああ。やっとわかったか。」
「お、おどろかせないでよっ! ミノンがおかしくなっちゃったのかと思ったじゃない! ……イワカンありすぎだわ。」
「……あの……ライラさん。そのドアが、壊れないんだ。だからボク、追いかけたいのに、ジタンを追いかけられなくて……。」
「ふん……。」
ライラが腕を軽く振り、扉を吹き飛ばす。同じ力を使っているとは信じられない程に手早かった。これが、差だろうか。
「これで良いだろう。行くぞ。」
「すごい……ま、待って!」
他の方々も加えてジタン様の元へ向かう。やはり皆、口を揃えてジタン様の異変を訴えていた。真実を知って――あの優しさを失ってしまったというのだろうか。あの、眩しい笑顔も。
(ねえ、ライラ……私、必要ならジタン様のこと説得する。その時は身体、返してね。)
(……説得? お前がか?)
(うん。……力不足でも構わないの。ジタン様は、ずっと私を支えてくれていた。もしも心に傷を負ったのなら、私も……精一杯支えてあげたい。)
あの時はわかっていなかった。それが、どれだけ心強いことか。心が弱い私に、できることは僅かかもしれない。でも……だからといって、見て見ぬ振りなどできない。もらったもの全ては返せないけれど、できることは全てやりたい。
(……そうか。)
だが、その心配は杞憂だった。
「みんな……!」
一緒にいるダガー様が必死で説得したのだろう。ジタン様は、いつも通りのジタン様だった。エーコ様達を閉め出すなんてことをした様には見えない。
「久しぶりだな。……お前、これからガーランドの所へ行くのだろう?」
「ミノン!?」
「……全く。……これで良いか?」
ライラは軽く溜め息を吐くと、幻術をかけてあの姿に変わった。私からは見えないけれど、髪は薄い金で瞳は黄金なのだろう。
「ああ……ライラだったのか。驚いたぜ。……ところで、何でその名前を?」
「知っているからだ。私も用が有る。だからミノンの身体を借りた。」
「ふーん……だからこんな所にいるのか。……まあ良いや。みんな、行こうぜ!」
ライラの魂は私の魂。だから、彼女と私の力は同じはずだ。
それが信じられない程、ライラは強かった。
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