力を使えば畏怖される。避けられる。利用される。恨まれる。
力を隠すようになったのは、いつからだろう。
W-K暗黒の運命
「ミノン? ……眠っておるみたいじゃな。」
「……人の肩で寝るとは……いい身分だな。」
「仕方がないだろ。体調崩してんだから……。」
耳を打つ声に誘われて目を開ける。ぼんやりと霞んだ視界に揺れる地面が映った。まだ肩に担がれている様だ。
「お? 悪ぃ、起こしたか?」
立ち止まって地面に降ろされる。壁に体重を預けると、割合に視界がはっきりした。しかし頭は働いていない様だ。ジタン様とフライヤ様に顔を覗き込まれ、やっと今いる場所を認識する。あれは、昔……2年前……いや、もう少し、昔の……。
「……ゆめ……。」
「夢を見てたのか。気分はどうだ?」
「…………。」
「まだ熱が高いな……って、さっきより熱いんじゃないか!?」
状況は悪化するばかりだった。もう身体を自力で動かすことも叶わない。限界なのだ。封魔を破らない様、力を抑制しておくのが。
「ミノン……おぬし、何か心当たりは?」
「…………あり、ます……力……使っちゃ……駄目……辛い……です……。」
疲弊のせいか、いつもなら言わないだろうことが素直に口から零れる。隠していたいはずなのに。きっと、人と違うことは恐れを呼ぶから。
「……もしかして……ここが駄目なのか?」
「確かに、ジタンにしか読めない文字が刻まれていたり、魔法が使えなかったり……不可思議な場所ではあるが……。」
「……そっか……テ……ラ……。」
ぐらりと意識が霞む。自分の口にした言葉の意味もよくわからなかった。目を閉じる。
「え……!?」
「……ミノンにとって、ここにいるのが辛いならば……尚更急ぐべきじゃ。」
「ああ……そうだな。もっとミノンの具合が悪くなる前に、グルグストーンを探そう。」
グルグストーン……妙にその言葉が耳について、もう一度目を開ける。程近いところに気配を感じた。ぼうっとその方向を見つめる。
「何だ? ……まさか、あれなのか?」
「その様じゃな。」
「じゃあ、ちゃっちゃと取ってこんな場所からはおさらば……何だ!?」
ジタン様が石を取ろうとすると、何かの気の塊が……魔物が出て来た。空に浮かぶ舟の様だ。召喚獣の気配も感じる。
(……何の役にも立てないなんて……力を使おうと思えば使える、でも……この結界には意味が……封じる……魔……。)
悶々と考えるが、熱のせいか上手く纏まらなかった。体力の消耗が激しく、視界が揺れる。あの魔物相手に3人では苦しいのか、戦況は目に見えて不利だった。守りたい――いつか覚えた思いが身体の芯から沸き起こる。以前より強く、確かに形を持って。
(もし……魔が目覚めたら、封印、すれば良い。……この……力、で。)
それが、私のすべきこと。
強く手を握りしめる。
「癒しの力よ、彼の者達を満たせ。」
封魔を破ることなく、完璧に使えた。思い描いた通りに気が呼応する。
「な……ミノン!?」
「おまえ、それ……ここ、魔法が使えないんじゃ……!?」
何とか立ち上がって一気に戦場まで駆けると、フライヤ様とジタン様が振り返った。何も答えず、気を高める。――本来なら使えるはずがないのだ。これだけの、強大な力を持っていなければ。
「雷よ、我に従え……貫け!」
数多の稲妻を形作り、落下させる。まだ茨の痣は静かだった。少しずつ身体が楽になってくる。回復術を使えば、削られていた体力も戻った。気力もまだ残っている。今のところ、特に何かが目覚める予兆もない。
「大いなる魂よ、一時の眠りにつけ!」
動きが鈍った隙を見計らい、幾度となく口にした仮封印の呪文を唱える。召喚獣は透明な石になり、私の手の中に収まった。
「ミノン!」
「何で使えたんだ!? ここは魔法封じがかかってるって……。……何だ、随分と顔色が良くなったじゃねえか!」
ジタン様が額に触れる。既に熱は完全に下がっていた。病だったならこうはいかない……原因は明らかだ。
「ご迷惑を……おかけしました。」
「全然だ、気にすんなよ! 本当に良かった……。」
「では、帰ろうか。グルグストーンとやらも手に入ったことじゃし。」
「おう、きっとみんな待ちくたびれてるな。……ミノン、行こうぜ!」
手を握られる。ごく、普通に。
普通に、生きたかった。
人と違わない、ただ一人の人間として――“生きる”という行為をしたかった。
けれど今、力を手放すかと聞かれたら……迷うと思う。
守りたい。
恐れられたくない。
一つの事柄は、常に陰陽を持つ。こんなことでさえ。
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