「よし、飛び込むぞ!」
W-Iウイユヴェール
ジタン様の指揮で、入り口だという渦巻く流砂に一斉に飛び込む。気が付くと、上質な寝台に寝かされていた。辺りには見覚えのある装飾が溢れている……やはり、あの城の様だ。
「フライヤ、サラマンダー……ミノン。この3人は外に出るんだ……。」
どこからともなく<クジャ>の声が響いて、扉がひとりでに開く。
「ミノン! 怪我はないか?」
「はい。」
外に出ると、二人も出て来ていた。声に従って空間移動の術が施された陣の上に乗る。側には黒魔道士が二人いた。話は本当だった様だ。
飛ばされた先では、ジタン様と<クジャ>が話していた。
「会えて嬉しいよ、ミノン……。」
「……クジャ様……。」
「本当はキミを手離すなんて嫌なんだけど……僕としたことが口を滑らせて、好きに選ばせてあげるだなんて言ってしまってね。……仕方ないとはいえ、残念だ。」
「…………クジャ?」
「……早く行きたまえ。……ミノン、気を付けて行っておいで……。」
「…………。……はい。」
ジタン様の話では、他の方々を人質にお使いを頼まれたらしい。<ヒルダガルデ1号>に乗せられ、しばらく空の旅となる。甲板に出ると、薄蒼い空が一面に広がっていた。外套が風に浚われる。
(……何故……ジタン様は私を選んだ? 何故、ダガー様を残して行った……?)
生憎、<クジャ>が約束を守るとは思えない。もしもの時の為に式神は残して来たが、気配を完全に隠せる弱いモノだけだ。
それに、何故か嫌な予感がする。困難に当たる気だ。また、何かあるのだろうか。
辺りをぐるりと見渡す。誰もいなかった。舟の稼働音だけが響いている。
♪……とおりゃんせ……とおりゃんせ……♪
歌うとほんの少しだけ気分が良かった。これはベアトリクス様に誉めてもらった歌だ。あの混乱の中で、行方不明になったという。無理をせずにいてくれているだろうか。
「……おい。」
「っ!?」
驚きに肩が震える。思ったより歌に集中していたらしい。声をかけられて初めて、サラマンダー様が背後に立っていたことに気付く。
「今の歌声は……おまえか?」
「え……は、はい。」
「……そうか。」
そう言うと、サラマンダー様は何かを納得した様子で去って行った。何がしたかったのだろう。
しばらくすると、赤茶けた大地の広がる場所で船から降ろされた。ここからは歩いて行く様だ。地図の上ではかなり離れている。
魔物を次々に倒しながら進むと、やがて荒れ地の中に佇む建物にたどり着いた。閉ざされていた扉が招き入れる様に開いたので、建物内へと足を踏み入れる。
「…………!」
「どうした、ミノン?」
「ここ……力が、使えない?」
どの部屋も魔封じの気配に満ちていた。まるで、何かを恐れる様な。
「あ、ああ。話してなかったか?」
「……はい。」
つい黙り込んでしまう。誰が何の為に張ったのかはわからないけれど、この建物には幾重にも頑丈に力を封じる結界が張ってあった。破ることもできる。しかし、簡単に破っていいとは思えない。
「何かあるのか?」
「……いえ……。」
「まぁ、魔法が使えない……なんて妙な話だよな。でもおまえの剣もあるし、回復ならアイテムや竜技と奥義で出来るから大丈夫だろ。」
「……はい、……。」
船の中の予感が蘇る。
案の定、というべきだろうか。
それは少し経った時、的中してしまった。
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