アレクサンドリアの町は、リンドブルムを降伏させた話で持ちきりだった。



U-M手配書



確かに人の視線を感じて首を傾げる。着物がここでは目立つ格好なのはわかっているが、もう少し意味深い視線な気がしたのだ。何を見ているというのだろう。少し気にしながら八百屋に入る。

「メモには何と書いてあるのじゃ?」

「……え……っと……。」

入ってすぐにそう何気なく問われ、私は言葉に詰まってしまった。――書かれている文字が読めないからだ。

「もしや、おぬし……文字が読めぬのか?」

「……苦手、です。」

「っ! ……そうか。ならば私が読もう。」

フライヤ様がスラスラと読み上げる。今日の夕飯の材料の様だ。

「……こちらを、いただけますか?」

「はいよ! ……?」

書かれていた食材を籠に入れてお会計を頼むと、にこやかだった店主は明らかに怪訝そうな顔になった。町で感じたのと似た視線を感じる。

「どうかされたか。」

「……お嬢ちゃん……。」

「私……ですか?」

「どういうつもりか知らないが、その格好はよしな? 面倒なことになるぜ。」

店主は太い指で着物を指すと、眉を顰めてそう言った。今まで、目立ちはしただろうが面倒事に巻き込まれたことはない……急に増えた視線とも関係あるのだろうか。

「……面倒?」

「知らないのかい? お嬢ちゃんの格好、女王様からの手配書に書かれている少女の条件そっくりだ。兵士に見つかっちまったらまずいぜ。」

「……手配書……女王?」

「ああ、確かここに……あった。」

店主が机の中から引っ張り出した紙切れを受け取る。横から覗き込んだフライヤ様に渡すと、読み上げてくれた。

「何々……袖丈が縦に長い白い服に、白いローブを被った推定10代の女子。魔法に長けている。アレクサンドリア軍に著しい被害をもたらした。……!」

フライヤ様が息を詰まらせる。それは私も一緒だった。いったい、何故。

「な? そっくりだろ? 袖丈が縦に長い服ってのも、おれ初めて見たし。しっかし……著しい被害って一体何やったんだろうな。お嬢ちゃんはまさか違うと思うけど、一応はその格好、やめとけよな?」

「……はい。……ご助言……ありがとう、ございました。」

「いいってことよ。まいどあり!」

「……行こう、ミノン。」

早々と店を出て、急ぎ足で路地裏に隠れる。少し考えれば、すぐに原因とおぼしきことに思い当たった。何と迂闊なのだろう。

「……どういう……ことじゃ?」

「ごめんなさい……昨日、姿を隠さずに術を使ったんです。いつもは、隠していたんですけど……必死、だったから……。」

「それで……見られたのか。」

「……恐らく……。」

厄介なことになった。よりによって、あの女王に目をつけられるなんて……。

「そこの白い服の娘! 疚しき義がなければ、抵抗せず出てくる様に!」

表から声が響く。もう見つかったというのだろうか。

「……フライヤ様、小劇場の皆様によろしくお伝えください。私ならば大丈夫です。あの女王からなら、いつだって逃げ出せる。」

「ミノン!? 何を言うか!」

「お願いします。事が終わるまで、お静かに。」

迷惑はかけられないし、逃げ出せるのは事実だ。手配されているのはフライヤ様とて同じはず。巻き込むわけにはいかない。

「しかし……!」

「──わかりました。」

外に出ると、女兵が2人いた。町の人が呼んだのだろうか。

「よろしい。アレクサンドリア軍に被害を及ぼしたのは貴女ですか?」

「はい。」

「……! 女王は貴女を連れてくる様に仰せです。私達と一緒に来てもらえますか?」

「はい。」

約束通りフライヤ様は出て来なかった。すっと前を向く。


これから何が起こるのだろうか。







第U章 終






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