朝は久しぶりに眠った感じがして、すっきりと目が覚めた。体調も力も本調子と言えるほど回復している。朝日を浴びるため、外に出てみることにした。
U-J朝の光
冷たい風が肌を撫でる。しばらくただ立っていたが誰も通らないので、少しだけ剣を振ってみることにした。無心になりたい時は、剣が一番だ。昨日の落ち着かない感覚も大分なくなっている。
「精が出るの。」
「……フライヤ様。」
一呼吸吐いた時に話しかけて来たフライヤ様は、いつもの赤い外套姿ではなく一般人の様な軽装だった。きっと着替えさせられたのだろう。
「……おはようございます。」
「おはよう、ミノン。朝から剣の稽古とは感心なことじゃ。」
「あ……ありがとうございます。」
剣を下ろして納める。何を話して良いのかわからずにいると、フライヤ様の方が口を開いた。
「……おぬし、昨日は不調だった様じゃが……大丈夫か?」
「いえ、私は……もう平気です。……フライヤ様は、どこか……痛みますか? 痛むなら……。」
「おぬしの気にすることではない。騎士に生傷は絶えぬものじゃ。」
やんわりと拒否される。しかし、傷については否定しなかった。騎士というのはこの様に強いものなのだろうか。
「……でも……。」
「…………めんこいのう。」
「え……はっ?」
よく考えれば意味はわかるが聞き慣れず……対象もわからない言葉に、反応が少し遅れてしまう。
「剣を振るう時も術を使う時も……おぬしは強さしか見せぬ。今も自身を気にせず、私の傷を癒さんとした。じゃがこうして見ていると、ごく普通のおなごじゃ……。」
ふわりと頭を撫でられる。……私が……ごく、普通……?
「最初出会った時は、可愛らしく思っておった……そして今もおぬしは何ら変わらぬ。不覚にも忘れておったようじゃ……おぬしはまだ、子供なのじゃな……。」
「……フライヤ様……。」
「迷った時、辛い時は言いなさい。おぬしは人に頼らなさすぎる……否、私が頼って欲しいだけなのかもしれぬがな……。」
「…………。」
未だかつて……こんな風に言われたことは、ない。一人だと、誰にも頼らずいようと、思っていた。どうして……?
「おぬしは頑張り過ぎておるのじゃ。……歳は今いくつじゃ?」
「…………18、です。」
「そうか……18……まだ若いの。……しかし……ほっほっ、これはジタンに言ったら面白そうじゃな。」
なぜ彼の名前がいきなり出てくるのかわからず首を傾げる。フライヤ様は軽い笑い声を収めると、ひどく愉快そうに言った。
「以前おぬしが姿を消した時、『あいつは妹みたいに見てたから……心配なんだ』とか道すがら言っておっての……。」
「……妹……ですか?」
まさかその様に見られているとは、思っていなかった。……妹……。
「ああ。しかし、ジタンは今16……ふふふふ……。」
童顔らしいし背も低いため、実年齢より下にみられることは慣れている。今さら特に思うことはない。ただ、「妹」……その言葉にほんの少し、不思議な感覚がした。
「まあ、気にするでない……妹だなど、可愛らしいものではないか。どうじゃ? 私は21。姉と思ってはみないか?」
今度は「姉」。――そうだ、<家族>だ。……親しい者を……指す言葉。
「あの、……とても……心強いです。」
「お二人とも、何をしてるっスか? ルビィさんが、朝食が出来たと言ってるっス!」
「……行こうか。」
「はい。」
差し出された温かい手を握る。
こんな時すら動かない何かに慣れすぎて……この暖かさの正体が、わからない。
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