私には力がある。

私がこの力を使う時、制御の為に私自身の気力を消費する。未熟な私の気力は人並みだから、意識が途切れることもあった。

──全てを自分でやろうと思わないことだ。お前の力となれる者は、どこの世界でも必ず……いる。

いない。そんな人は、いない。

この力を使う限り、私は――<ライラ>と、二人きりだ。

もしなれるとしたら、あの人だけ。

優輝。会いたいよ。



U-H疑念



重い体を奮い立たせて起き出すと、ルビィ様は手料理を振る舞ってくれた。いつでもそうだがほとんど食べられず、心配させてしまう。

私は城の追っ手から逃げて来たこと、容赦なく傷付けられたことを話した。今のところ感付かれたという気配はないそうだ。フライヤ様達は代わる代わる起きてはまた、休んだ。



二つの月が高く上がった真夜中、私はそっと抜け出した。力を使って羽を形作り、高い屋根に登る。頬を掠める冷たい夜風。しばらく音を聞いていると、ひときわ強い一迅が身を浚う様に撫でていった。

じっとしていられない様な、かといって動くこともできない様な感覚に襲われる。

この落ち着かなさは、一体何なのだろう。力を一度に使いすぎたのは反省しているが、倒れたりはしなかった。人を守ることもした。何も問題はなかったはずだ。

しかし――本当に良かったのだろうか。

本当に、私は必要とされていたのか?

「…………。」

昔から落ち着かない時は一人で歌った。中でも童歌は、少し物哀しい旋律が好きだ。

♪通りゃんせ……通りゃんせ……ここはどこの細道じゃ……天神様の細道じゃ……ちっと通して下しゃんせ……御用のない者通しゃせぬ……この子の七つの

「綺麗な声ですね。」

「……っ!? ……ベアトリクス様……!」

すっかり歌に夢中になっていて、気配に気付かなかったらしい。屋根の下を覗き込めば、ベアトリクス様が立っていた。

「……き……聞いて……らした、のですか……?」

「ええ……邪魔をして申し訳ありません。聴いたことのない歌でしたが……。」

「…………あの、……生まれ育った、場所……の……歌、なんです。」

「……私もそちらへ行って良いですか? あなたと……少し、お話をしてみたいのですが。」

話すことは苦手だ。しかし、断ろうとは思わなかった。落ち着かない感覚が、そちらに逃げていく。

「は……はい、……でも、ここ……高い、ですよ?」

「このくらいなら大したことはありません。」

怪我をしているのに、ベアトリクス様はひらりひらりと身軽にこちらへ登り近くに座った。肌でその魔力を感じる。

「先程、私の名を呼びましたね……スタイナーから聞いたのですか?」

「……は……はい。」

「そうですか……。……まだ、あなたの名前を訊いていませんでしたね?」

気高い波長。美しく高貴な人だ。しかし圧倒する様なものではなかった。物静かな雰囲気を感じる。――剣士としての顔ではないだろうけれども。

「……美音、です。」

「綺麗な響きですね……ミノン殿、とお呼びしても?」

「……あの、……どうぞ、お呼び捨てください。」

「では……ミノン。…………。」

少しの沈黙が落ちる。ベアトリクス様が何かを言い出しかけ……一瞬遅れて口をつぐんだことは、私にもわかった。何を言いかけたのかまではわからないが。

「……先程歌ってらした歌、本当に美しかったです。あなたがあの様に綺麗な声で歌うと、皆は知っているのですか?」

「えっ?」

換えられたとおぼしき話題は、思いもよらない内容だった。ほんの少しの……違和感のようなものが飛んでいく。

「……そ……その様な……買い被り、です。……皆様の前で、歌うだけの……価値もありません。……ですから……歌うことは……ご存じないかと、……思います……。」

「まあ、それはもったいない……先程の歌、続きはあるのですか? 是非ともお聴きしたいのですが……。」

おそらく代わりとはいえ、口調に偽りは感じられない。私の歌など……なぜ聞きたがるのだろう。

「……え、そんな……。」

「いけませんか……?」

「い、いえ……では、少し続きを……。」

冷えた夜の空気を吸い込む。

♪……この子の七つのお祝いに……お札を納めに参ります……♪

歌は二つの月へと吸い込まれて行った。




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