所々に仕掛けのある細い通路を抜けると、豪華な飾りが溢れる広い部屋へ出た。ダガー様の眠る顔を見ていると、なぜか何かが痛む気がしてくる。

体が痺れて、痛くて……苦しい。

これは、なに?



U-Fすべきこと



「いたでおじゃる!」
「いたでごじゃる!」

突如響いたけたたましい話し声に、重苦しかった静寂が破られる。

「やつらでおじゃるよ!」
「やつらでごじゃるよ!」

双子の道化師が連れて来たのは……あのベアトリクス将軍だった。

「お久しぶりですね、スタイナー。これまで、どこへ行っていたのですか? まさか、このようなケダモノ達と遊んでいた訳ではないのでしょうね?」

相変わらず凜として、気高い波長の強い魔力を纏っている。──そうだ、この人なら、ダガー様の術を……。

「何だとっ! ケダモノは一体どっちだと思ってるんだっ!」

ジタン様達が敵意を露にし、瞬時に構える。迷いから構えられずにいたら、ベアトリクス将軍に咎められてしまった。

「……構えなさい。戦意のない者に刃を向けるのは、気が引ける。」

戦う?

ダガー様を、助けられる人と……。

「…………。」

疑問符を振り払い、剣を構える。身体は未だ痺れていた。この状態で剣を持つのは不安だ。しかし……皆様の気もこの人の闘気も、言葉で抑えることはできない気がした。

「纏う気が変わりましたね……ずいぶんと、強い力を持っている。万全ではないようだが、久々に楽しめそうだ。」

力が強いだけではなく、勘も良いのだろう。力を持っていることは一目で見抜かれてしまった。ベアトリクス将軍が向かって来る。

逆手に持った短剣から伝わる衝撃は、女性のものとは思えないほど重かった。私の様な付け焼き刃ではなく、生粋の剣士なのだろう。

「……っ……。」

「おねえちゃん、危ないっ!」

ふらついた隙をついて、強い魔力を纏った一閃が放たれる。思わず結界で防ぐと、不意をつかれたのか一瞬ベアトリクス将軍の動きが止まった。

今が、好機だ。

「ガーネット様を、お助け下さい!」

「……何を……。」

「あちらで、眠っていらっしゃるのは……ガーネット姫様です……っ!」

「ミノンッ!」

増していく痛みに堪えきれず、ついに膝を付いてしまう。何故なのか息まで苦しかった。ジタン様に支えられる感触を肩に感じる。

「まさか……あれはガーネット様ではありませんか!」

ダガー様の元に駆け寄ると、ベアトリクス将軍は幾度も幾度も術を解こうと試みた。やはり、この人なら……。

願った通り、何度目かの挑戦で術の解ける音がした。

「う……、うん……。」

「ガーネット様、お気づきになられましたか?」

「頭が痛い……わたし……いったい……?」

ダガー様の目が、覚めた。

そう認識すると、ほんの少しだけ体が楽になった。痺れも痛みも取れないけれど……息苦しさは少し楽だ。

「何の騒ぎじゃ!」

何とか、事態が落ち着くかと思った時だった。いきなり大きな声がして、ブルメシアで見た大柄な女の人が入って来る。

「もうガーネットからはすべての召喚獣を抽出したのか?」

「抽出したでおじゃる!」
「抽出したでごじゃる!」

「だったら、はやくガーネットを捕らえて牢屋に閉じ込めておしまい!」

放たれた言葉に、思わず耳を疑った。……今、何て?

「その命令、どうかお取り下げ下さい!」

ベアトリクス様に命令を下せるのなら、この人は女王だ。女王ということは、ダガー様の母親だ。母親、なのに……。

少し引いていた痛みが、急に限界に近くなる。支えられている肩の感触すら危うい。

「……ミノン?」

自分の意思に依らず、力が集中して行く。ギリギリの理性が留めているが……暴発しそうだ。

おかしい。私の何が、私をこうしているんだ?

「あなた達、この場は私に任せて早く逃げなさい!」
「私はこの場を去れぬ!」

ガーネット姫を守るため、ベアトリクス様は仕えてきたはずの女王に刃を向けた。フライヤ様も槍を構える。

「お母様!」

ダガー様の呼び止める声にほんの一瞬だけ足を止め、女王は行ってしまった。

「……ミノン、少し頑張ってくれ。」

ジタン様に支えられて立ち上がる。視界が揺れ、足元はふらついていた。いったい何故こんな状態になってしまったのだろうか。全く見当がつかない。

「無理させてごめんな……さ、おぶってやるから、ほら。」

「……いえ……大丈夫、です。」

しかし今、痛みは僅かだが引いていて……先程よりは楽だった。ふらつくが走ることができないわけではない。ジタン様から離れ、自力で立つ。

「……ダガー様を……。」

「わたしは大丈夫よ。走れるくらいだわ。」

「……私も……走れ、ます。」

「じゃあ二人とも、辛くなったら言えよ。今は走るぞ!」

先程の隠し通路を使って追っ手から逃げる間に、痛みは随分とましになっていた。原因はやはりわからないが好都合だ。

しばらく走り、地下特有の黴臭い匂いがかなり濃くなった頃……スタイナー様が足を止めた。二人の加勢をすべきか迷っているという。

「……姫さま、さらばです!」

騎士らしい敬礼をすると、彼は自らがすべきことのために上へ向かって行った。

「っ、キリがねえな……!」

次々と襲い来る魔物を倒すうち、だんだん皆様の動きが鈍ってくる。本当なら使いたくないことには変わりはないけれど、このままでは勝ち目は薄い……ここで捕まる訳にはいかない。

「風よ、鎖となりて彼の者らを縛せ!」

とどめは刺さずにその場に縫い留めると、狙い通り狭い通路は通行止めになった。

「……っ!?」

ダガー様が声にならない悲鳴をあげる。――そうだ、彼女だけは知らないのだ。私の力の存在を。

「……っ……ごめんなさい、……恐ろしい、ですか……。」

「ち、違うの! 驚いただけよ……ありがとう!」

罠にかかりながらも辿り着いた先には、地下空洞の様な物があった。地中生物を使った乗り物が停まっている。これに乗ればこの城から出られる様だ。

「ダガー!」

一足先に乗り込んだジタン様が、迷いを断ち切れないらしいダガー様を呼ぶ。

「やつらの思いをムダにするな! 今ダガーがすべきことは何だ?」

ダガー様は決心した様に頷くと、自ら乗り込んだ。

「ミノンも早く……。」

「私は、行きません。……ジタン様……これを。」

ジタン様にオーディンを封じた石を手渡す。私が持っているべきではないと感じていた。ダガー様が持っているべきだとも。

「何で……っ! それに、これ……?」

「そちらはダガー様が落ち着かれたらお渡しください。……それでは。」

発進する乗り物を見送る。

「どうか、ご無事で。」


私は、騎士様方に加わらなければ。

それが、私のすべきこと。



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