進軍を追いかけて着いたのは、周囲を砂嵐が吹き荒れる大樹だった。宙からその壮大な渦を見渡す。まるで何かを守っている様だ。
U-Dクレイラ
アレクサンドリア軍は、途中で新たに黒魔道士兵を加えて進軍した。今は砂嵐で内部に入れないため待機中の様だ。
とりあえず魔力を抜いていく。やはり躊躇いはない……まして戦力を減らしても軍に犠牲が出る可能性が低いとなれば、尚更だ。地道な作業だが、派手に何かをするより効果的だろう。
一度覚えた違和感に、手を止める。手応えがあった――魔力が抜けなかったのだ。
(……厄介だな。)
相当の術者だということだ。気づかれないよう、そっと降りてみる。
そこには見覚えのある、巻き髪の女の人がいた。
ブルメシアにいた女性二人のうちの一人だ。以前見た時にも思ったが、凛として無駄のない立ち居振舞いから察す限り……剣士としても優れているだろう。加えてこれだけ魔力が強ければ、一人でもかなりの戦力に違いない。しかも先程から兵士に「ベアトリクス将軍」と呼ばれている。……この人が、ブルメシアを襲うと決めたのだろうか。
すぐには抜けないだろう。抜いたら感づかれる可能性が高い。しかし危険因子である以上、抜かずにいるわけにもいかない。足止めをすべきだろうか。
懸命に策を巡らす。しかしゆっくり考えることはできなかった。──砂嵐が止まったのだ。
(……魔力が……途絶えた?)
断続的だった魔力が感じられなくなる。途絶えるというよりは、何か他の力に遮られた様だ。
原因はわからないが、止まることを待っていたかの様に進軍が始まった。黒魔道士兵はほとんどいないので軍から目を離し、ネズミ族に化けて街で避難を促す。
(…………。)
聖堂の様な建物の前で見つけたジタン様一行は、魔力を持った宝石──これで砂嵐を起こしていた様だ──を奪ったベアトリクス将軍と戦い……再び敗れていた。気付かれない様に癒しの術をかける。
あの宝石が必要だったらしいベアトリクス将軍は、黒魔道士兵の術の光に入った。ジタン様達も次々と光へ入って行く。調理師の様な人だけは、その場から逃げて行った。
あの光が時空移動の術であることはわかる。しかし情報があまりに少ないため、行き先は皆目わからなかった。次の目的地を考えていた時……ふと不穏な気配を感じる。
(……何、これ……すごく強い……力、……破壊の気?)
あれは──<オーディン>!?
オーディンはダガー様の召喚獣のはずだ。しかし操る人の気配は、ダガー様のものではなかった。天を裂き愛馬と共に現れたオーディンがクレイラに一撃を放つ。あんなものが当たれば、クレイラの人々の命が危ない。
「盾よ、我らを守れっ!」
時間がないため簡易な、しかし渾身の力を込めた結界で防ぐ。かなりの衝撃は来たが、恐らく街に被害は出なかっただろう。
(誰が……あれは?)
力の気配を追って空を見やれば、空に大きな戦艦が飛んでいた。その甲板あたりからオーディンを操る者の気配がする。
「……っ!」
また攻撃が来る。防ぐが、このままでは埒があかない。……こうなれば。
「時よ、止まれ!」
全ての動きが止まる。長くは保たない。
「大いなる魂よ、一時の眠りにつけ!」
封じたオーディンは、闇の様に深い漆黒を呈す丸い石となった。
「……時の流れよ、戻れ。」
身体を重くするような疲労を感じる。時の流れという理を歪めたのだから、一定の手順を踏まなければ負荷はそれだけかかる。少し無茶だったかもしれない。
(……ダガー様に何かあったのかもしれない。)
召喚獣が操られているのだ。異常を考える方が妥当だろう。彼女の気配を探る。一定ではないが、微かに気を感じた。急いでその方向に飛ぶ。
やがて見えた建物が、アレクサンドリア城──ダガー様の育った城だとは、その時の私は知る由もなかった。
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