気付いたらお城の中にいた。
身体は小さく、子供らしい柔らかな肉体。
サラリと肩から流れ落ちた髪の毛はさらさらと、縺れること無く地面へと真っ直ぐ伸びる。
フワフワとしたレースに彩られたドレスが足に纏わり付く。
「ぇ……――っ!?」
何これ、と言おうとした唇から零れた音が、自分の知る自身の声の響きと違って焦る。
戸惑いだけが彼女を包んでいた。
転生。
物語では題材としてよく使われる、すでに使い古した手法の一つ。
その真っ最中にしか思えない現状では、馬鹿にしたくともできない。
ごく平凡な日本人であったはずなのに、城を飛び交う言語はどこかで聴いた覚えがある程度の異国の言葉。
広い広い城のメイドたちから『お嬢様』と呼ばれ、蝶よ花よと可愛がられる日々。
父親はどこかの社長か何かなのか、家には滅多にいない。
母親はいない。
いや、いるにはいるのだが、自分に会いに来ない。
母親である以前に女なのだろう。
つい先日、弟と会った。
複雑な家庭を地で行くような家の事情で、父親の愛人の息子なのだそうだ。
知った時に暴れたから会わせないようにしていた、とこそこそと話していたメイドたちの会話からすると、それが原因かもしれない。
私が今この少女になっているのは。
演技をしているでも無いのに不審がられないのは周りが私に興味が無いから?
元々こんな性格だったのだろうか?
性格が変わっていないようだというのが一番有力だけれど。
元の世界での私はどうなったのだろう?
この身体の本来の持ち主は?
そのことを誰もいない場所で考え涙を零す。
人前では、そんなことは欠片も見せず笑みを浮かべる。
いくら身体は子供でも、中身は大人。
人前で泣くなどできるわけが無い。
そして今日も心を押し隠した笑顔の仮面を被る。
泣くことが罪だというのなら、笑うことは罰なのだろう
(そういえば、私の名前はビアンキだそうです。)
(自転車の名前じゃなかったでしたっけ。)