TRRRRR……

「――あ、菊さんですか、こんにちは」
『あかりさん、お久しぶりです』

 電話先に相手がちゃんと出たことに、あかりは少しホッとする。
 今までメールはしたことがあっても、電話をしたのは初めてなのだから尚更だ。

「少しお時間よろしいでしょうか?」

 改まった口調でのお伺いに電話の向こうが息を飲む音が聞こえる。
 今回に関しては、改まっても仕方ないと私は思うのだけど……

『ど、どういったご用件でしょうか?』

 おずおずとした口調に、直接会っていれば上目遣いなどが見れたかもしれない、とあかりは少し損をした、と思う。
 まだ見たことが無いそんな姿が見られたのであれば、やっぱりメールでどこかに呼ぶべきだったかもしれない。

「菊さん、新連載読ませていただきました」

 好きなお話とは別に、新たに新連載を別の雑誌で始めた彼に告げる。
 その言葉に息を止めたように返事が無い。

「素敵なヒロイン、でしたよね」

 ニッコーッとわざとらしい笑みが浮かぶ。
 その笑顔が電話越しなのに通じたのか、あのですね……といったもにょもにょとした言い訳の声が聞こえる。

「私に似ているように感じたのは気のせい、でしょうか……?」
『――すみませんでしたー!!!!』

 あぁ、これは電話なのに頭を全力で下げているなぁ、と思う。
 やっぱり直接会った方が良かったかもしれない。

『すみません、今までと違うヒロインのビジュアルがどうしたと編集さんに言われている内に、気付いたらあかりさんしか浮かばなくなってしまい……』

 全力で謝っているのがおかしくなってしまい、笑いが止まらなくなってしまった。
 ふふ、くすくす……と笑う声が電話の向こうにも届いたらしく黙ってしまった彼に、いいんですよ、と言う。

「モデルにしたのなら、先に一言欲しかっただけです」

 そう、大好きな菊さんのお話の中に出れるなんて嬉しいだけなのだから。

『それでも、すみませんでした……』
「好きなだけ私の言動を使ってくださっていいですから」

 キャラのセリフにまで私の言動が少し及んでいたことを言い、参考になるのならいくらでも、と言った私にありがとうございます、と言う。
 次また会う日を約束し、電話を切った。




「バレてしまいましたね……」

 新連載は全く違う雑誌だったから、そこまでチェックされてしまうとは思っていなかった。
 話していて楽しい彼女との会話から感じ取れる性格が好ましいと思っていたからか、今までのヒロインとは違う子を、と言われてあかりしか浮かばなかった。
 彼女から着信した初めての電話で改まって言われたことに、怒っているのかと思ったがそうではなかったことにホッとした。
 ホッとした以上に、私ならこういう展開ならこう言います、とネタになることまで言ってくれたことに胸が騒いだ。

「カッコイイ、ですね」

 日本人らしい部分に垣間見えた芯の強さに彼は微笑んだ。





ネタ提供ありがとう、すぅちゃん。
「なにそれかっこいい」とキュンッするのはそのまま書くにはそのまま過ぎて書けなかったんだぜ……

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