喫茶店へとドキドキしながら向かった。
 憧れの先生とお話ができる! などという程度じゃないのだ。
 この一週間何度も夢に見る程にシミュレーションを繰り返したのは伊達じゃない。
 何度も夢に見ている内に気付いたのだから――

 日本人形を見た時のような綺麗と可愛いの中間のような印象を持っていた本田菊さんに恋愛感情の欠片をはぐくんでしまっていることに。



「こんにちは、松崎さん」
「時間を取ってもらってありがとうございます、本田さん」

 ペコっと頭を下げて喫茶店の席へと座る。
 本田さんを待たせないようにと早めに来たのにも関わらず、すでに喫茶店の中でコーヒーを飲んでいた。
 片付けている物からすれば、プロットを書いていたか、仕事の何かをしていたのだろう。

「中断させてしまってすみません」
「いえ、空いている時間の有効活用なので大丈夫ですよ」

 ホッとして、自分の飲み物が届いたのを確認してから、口を開いた。

「先日は、ありがとうございました」

 私の本を買っていったことは、とりあえず置いておいて(そのことを考えると動悸が激しくなる!!)貰った本の感想を伝える。
 元々好きな話のサイドストーリーなのだから、私も熱くなる。
 好きでなければ二次創作まで至っていない。

「良かったです。インク切れを起こすなんて私もまだまだですね……」

 その節はとても助かりました、と微笑む本田さんに少し見惚れる。

「私の本なんかのために使われるよりは有益でしたから」
「そんな謙遜を……面白い切り口で、考えさせられました」

 そうでした、買われてたのでした。
 BL書きなので、その部分を差し引いたとしても、話の解釈について突っ込んだ内容の物も一冊あったはずだ。

「少しその部分に言及したストーリー展開を考え始めましたよ」
「ぇっ!!」

 私が作者に影響与えたってこと!?

「えぇ。…………」

 ストーリーの脇に当たる部分の話だが、気になる形で描写されてそのままだった部分について、こうしていくつもりだという話を少しだけ教えてくれる。

「つまりは、…………」

 それならこうなるのだろう? と聞けば、そうでは無く〜〜と内容が明らかになっていった。
 多分今、私はこの作品の全読者を敵にする程の事実を手に入れた。
 勿体なくも、ね。



「――また、会っていただけますか?」

 話が弾んで楽しかったから、と言ってくれた本田さんに全力で頷き。

「良かったら、あかりって呼んでください」

 とお願いする。

「それならば私も菊で良いですよ」

 菊さんとお呼びする許可を頂いてしまいました。

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