弐
「あれ?」
「――おや」
イベント会場にて、会うとは思わなかった人と会った驚きを示した。
彼女は、BLばかりの場所で会った男性に。
彼は、先日会った少女にここで顔を合わせるとは、と。
「えっと……本田、さんは今日どちらに?」
「私は――あちらで」
スペースを売り子さんにお任せして来た所なのだ、と説明する。
「松崎さん、サークル参加されてたのですね……」
先日はありがとうございました。
「おかげで原稿を落とさずにすみました」
「いえ、役に立ったのならそれで」
良かった、と微笑んだ彼女に、彼も微笑む。
普段浮かべている微笑みより心の籠もった笑みを浮かべ、そして売り物の本をさっと見て言った。
「一冊ずつ頂いてよろしいですか?」
「え……!? 全部ですか!?」
BLなのに? と言いかけた彼女に、彼は掌を打ち合わせた。
「あぁ、そうでした。ちょっと待っていてくださいね」
すぐ戻ってきますから、と去って行った彼は自分のスペースがあると言った方向へと走っていった。
それから数分もしない内に戻ってきた彼は、手にしていた本を差し出した。
「貴女のおかげで出せた本です。よろしければ受け取って下さい」
手渡された本に視線を落として彼女は固まった。
――これ、は……
「私の神のっっ!」
好きで追いかけてた作家の同人で出した――
「本田、さんが……?」
「えぇ、私が描いた物ですが……」
「よ、よくやった、私! あの時よく本田さんに声をかけた!!」
これが拝めたのはそのおかげだと言われたら、私は感動のあまり泣いてもおかしくない! と本を抱き締めて固まっていた。
「えっと……松崎さん?」
「あ、すみません!」
本当に貰っていいんですか? と上目遣いに尋ねた彼女に彼は快く頷く。
「松崎さんのおかげですから」
「あ、ありがとうございます!」
――っと、そうなると、私は本田さんが描いた漫画の二次をしていたことに……
「え? 本当にこれ、いるんですか!?」
再び机上の本を示した彼に彼女は叫んだ。
嵐のように去っていった彼に、彼女は全部買われた……と意識を半分遠のかせながら、隣のスペースの人に羨ましがられていた。
みんなの大好きな神の本を直接貰ったから、と――
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