「あれ?」
「――おや」

 イベント会場にて、会うとは思わなかった人と会った驚きを示した。
 彼女は、BLばかりの場所で会った男性に。
 彼は、先日会った少女にここで顔を合わせるとは、と。

「えっと……本田、さんは今日どちらに?」
「私は――あちらで」

 スペースを売り子さんにお任せして来た所なのだ、と説明する。

「松崎さん、サークル参加されてたのですね……」

 先日はありがとうございました。

「おかげで原稿を落とさずにすみました」
「いえ、役に立ったのならそれで」

 良かった、と微笑んだ彼女に、彼も微笑む。
 普段浮かべている微笑みより心の籠もった笑みを浮かべ、そして売り物の本をさっと見て言った。

「一冊ずつ頂いてよろしいですか?」
「え……!? 全部ですか!?」

 BLなのに? と言いかけた彼女に、彼は掌を打ち合わせた。

「あぁ、そうでした。ちょっと待っていてくださいね」

 すぐ戻ってきますから、と去って行った彼は自分のスペースがあると言った方向へと走っていった。
 それから数分もしない内に戻ってきた彼は、手にしていた本を差し出した。

「貴女のおかげで出せた本です。よろしければ受け取って下さい」

 手渡された本に視線を落として彼女は固まった。
 ――これ、は……

「私の神のっっ!」

 好きで追いかけてた作家の同人で出した――

「本田、さんが……?」
「えぇ、私が描いた物ですが……」
「よ、よくやった、私! あの時よく本田さんに声をかけた!!」

 これが拝めたのはそのおかげだと言われたら、私は感動のあまり泣いてもおかしくない! と本を抱き締めて固まっていた。

「えっと……松崎さん?」
「あ、すみません!」

 本当に貰っていいんですか? と上目遣いに尋ねた彼女に彼は快く頷く。

「松崎さんのおかげですから」
「あ、ありがとうございます!」

 ――っと、そうなると、私は本田さんが描いた漫画の二次をしていたことに……

「え? 本当にこれ、いるんですか!?」

 再び机上の本を示した彼に彼女は叫んだ。




 嵐のように去っていった彼に、彼女は全部買われた……と意識を半分遠のかせながら、隣のスペースの人に羨ましがられていた。
 みんなの大好きな神の本を直接貰ったから、と――

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