副官とモンブラン(2019エルヴィン生誕祭)





02




花束。菓子の類。本。万年筆。
ブランド物のハンカチにストール、手袋。
どういうつもりか知らないが下着を送りつける者もいた。
下着の件はエルヴィン団長に報告すれば、苦笑していた。その反応から、恐らく下着をもらったのは初めてではないのだろうと推察する。
下着はまあ置いておくが、どれもこれもが一見して高価だと分かるようなプレゼントばかりだ。
理解は出来る。エルヴィン団長に安物は似つかわしくない。
――しかし、皆、これらを買ったというのか。

調査兵団は貧乏兵団として有名だ。
兵舎で生活する以上、食いっぱぐれたり寝床を失ったりする心配はないが、決して給料が良いわけではない。
皆……エルヴィン団長にプレゼントをお渡ししたくて、前々から貯金していたのだろうか。

メッセージカードや手紙が添えられていたプレゼントも少なくない。プレゼントとばらばらにならないようクリップで留めておく。
封筒に入っていないカードは中身が読めてしまった。
封筒に入っていないということは誰の目に触れるか分からないというのに、熱烈な内容も少なくなかった。
それは、団長以外の誰かの目に触れる可能性に考えが至らなかったか――いや、もしかして団長のお傍で仕事をしている私に対しての牽制のつもりなのかもしれない。
封筒に入っている手紙の類は、もちろん目を通したりはしない。
だがその内容は想像に難くなかった。

その日は引っ切りなしに兵士達がエルヴィン団長にプレゼントを持ってやってきた。
だから私は通常業務の合間に、ずっとプレゼント管理の仕事をしていたわけだが……午後の業務が始まる頃には、モンブランを渡す気持ちはすっかり萎えていた。
朝からずっと、高級で立派な贈り物と、熱のこもったラブレターの類を目にしている。
こんな高級なプレゼントの中に手作りのケーキなど、見窄らしくてとても出す気にはならなかった。

ケーキが完成した時には、上手く出来たと思ったのだ。
見目だってそんなに悪くない、味だって保証できる。
それなりのモンブランが作れたと……そう思ったから持ってきた。
そのはずだったが、女性兵士達からの山のような高級プレゼントを見て、私はすっかり気後れしてしまったのだ。



長丁場だった午後の会議が終わり、エルヴィン団長の顔には少々疲労の色が見える。
時刻は15時。やはり2時間かかった。
長い(そして無駄な)会議だった。

エルヴィン団長の一歩後ろを歩いていると、後ろからリヴァイ兵長がやって来る。

「エルヴィン」
「どうした、リヴァイ」
「クソみてえな会議も終わったし、政府筋のお偉方ももう帰りやがった。休憩しろ」

そう言って、エルヴィン団長の隣に並ぶ。

「どういう風の吹き回しだ?」
「お前今日誕生日だろ?俺が手ずから茶を淹れてやる。とっておきの茶葉でな」
「ほう、それは嬉しいな」

疲労の色が濃かったエルヴィン団長の顔が、パッと明るくなる。

リヴァイ兵長は無類の紅茶好きで、自室に高級な茶葉を数多取りそろえているというのは有名な話だ。兵舎の食堂に置いてある茶葉では満足できないらしい。
今までにも何度か、兵長がエルヴィン団長に紅茶を淹れに来たことがある。
それは例えば、甚大な犠牲を出した壁外調査の後だったり、エルヴィン団長が叱責を受けるために王都へ招集された後だったりした。
私も兵長の淹れる紅茶を頂いたことがあるが、本当に美味しいのだ。
それは、茶葉が違うことももちろんあるだろうが、私は兵長の技術が素晴らしいのも大きな要因だと思っている。

団長室に戻ると、リヴァイ兵長は勝手知ったるという感じで、団長室備え付の小さなガスコンロで湯を沸かし始めた。

「ナマエ、お前もこちらへ座って休憩しなさい」

エルヴィン団長は応接ソファーにどっかりと座り、私に向かって声を掛けた。

「は、私もよろしいのですか?」

言いながら、ポットの前で真剣に紅茶を入れているリヴァイ兵長に目をやる。

「エルヴィンがそう言ってんだ。黙って従えば良い」

愛想の無い声で、兵長もちらりと私のほうを見て言う。

「それではお言葉に甘えて、お相伴に預かります。そうだ、何か菓子を……」

そう言って、最初に頭をよぎったのは、自分で作ったモンブランだ。
これ以上ないお膳立てされたようなタイミング。もともとこのお茶の時間に出すつもりだった。
兵長が淹れているのは紅茶だ。モンブランと紅茶ならばっちり合うが――

やはり、私はモンブランを出せなかった。

「……菓子を、出しますね」

私は、今日エルヴィン団長が貰った山のような菓子の中から、見目の良い砂糖菓子を選び器に盛り付けた。
バラを象ったその砂糖菓子は、銀色の皿によく映えて、とても艶やかだった。



きっと今日も抜群に美味しいのだろうと思っていたリヴァイ兵長が淹れてくれた紅茶の味は、なんだか良く分からなかった。




   

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