The Heat of Red Chili Pepper





03




「おい、もう一回だ」

兵長はそう言うとコップに水を汲み、再び口に含む。
私の顎を掴み無理やり後ろを向かせると、またぬるくなった水を私の口内に流し込んだ。吐いたばかりなのにと思ったが、拒否する間もなく、私はがっちりと身体を押さえ込まれ逃げる隙間もない。

兵長の口から無理やり流し込まれた水をごくりと飲みこむと、私を流しに向かせる。
兵長はまた後ろから左手を私の顎にかけ、右手の指を2本口内に侵入させた。
もう一度舌の上をゆっくりと這うように指が進み、一定の深さまで指が到達すると、私は再び吐き気を催した。
下品な呻き声と共に、再度流しに水と芋団子の残骸を吐きだす。また兵長の指を汚してしまった。

もう芋団子の残骸は僅かしか吐き出されなかった。
赤い唐辛子の粉も一回目の嘔吐でほとんど吐いてしまったようで、今回は少ししか出なかった。

「……大丈夫か?」

兵長は私を反転させ、私達は向かい合わせになる。
私の顔を覗きこむ兵長に、涙をこぼしながらコクコクと頷いた。

「……ありがとうございます……ごめんなさい、指……汚しちゃった……」
「こんなのは良い」

兵長はこともなげに言う。

だが、痛みと痺れはそう簡単には消えてくれない。
痛みの根源は吐きだしたが、その根源は口内から食道を通って胃に入り、そして今しがた再び胃から食道を通って口内へと戻ってきたのだ。
大量の唐辛子が口と胃の間を往復したことになる。その軌跡に唐辛子の粉末を落としながら。
一本の線が私の口、食道、胃を繋ぎ、その線はビリビリと痛みを発し続けた。

「……」

黙りこくりまだ痛みと戦っている私に、兵長はシャツを羽織らせた。

「痛えか?」

私のシャツのボタンをぷちぷちと留めながら兵長は言った。

「……はい」
「吐いたら後は時間が経つのを待つしかねえな」

素直にこくりと頷いた。
涙がボロボロと止まらない。痛くて辛くてこんなに泣くことになるとは思わなかった。



「……まあ、そうやって顔を真っ赤にして涙をこぼしているお前も悪くはねえ」

ボタンを留め終わった兵長は、そう言ってくっと笑う。
こんなに痛いのに何を言ってるんだ、と私は上目づかいで兵長を睨み付けた。

「怖い顔すんじゃねえ。俺も一緒に耐えてやるよ」
「……は?」

一緒に耐えるってどういうこと、と思うやいなや、兵長は私の耳に手を添え顔を近づける。

「ちょっ……」

ちょっとまた、今吐いたばかりなのに嫌だ!
そう抵抗する間もなく唇と唇は重なり合い、すぐに兵長の舌が侵入してくる。
奥で縮こまっていた私の舌を、兵長は掬い上げた。

まだ舌は唐辛子の影響でびりびりと痺れている。
兵長の舌はまるで蛇のようにねっとりと私の舌に巻きついてくる。
痺れと痛みを感じたまま、舌と舌が絡み合った。

何分間舌を絡ませ合っていたのだろうか。
もともとキスの合間の息継ぎがあまり上手でない私は、すぐに呼吸困難に陥り、どんどんと兵長の胸を拳で叩いた。
それを合図に兵長は私の唇と舌を解放する。私はぷはっと大きく息を吐きだし、はあはあと呼吸を整えた。
私の口角からはだらしなく唾液が垂れていた。

「……すげえな」

兵長は自分の舌をちょんと右手の人差し指で触れた。口内からちろりと出た赤い舌が艶めかしくて目を奪われる。

「唐辛子」

私の舌や口内に残った唐辛子の粉末が、兵長にも移ったのだろう。
二人でこの痺れと痛みを共有していると思うと、妙な気持ちになる。

兵長は再び私の背中に手を回し、私のシャツの裾の隙間から手を入れ、その手で背中を直に触った。指を立て、下から上になぞりあげる。
汗ばんだ私の背中は刺激に敏感になっているのだろうか、指でなぞりあげられただけでゾクゾクとした感覚に震えた。
ただでさえ熱い身体が別の意味の熱を帯びてしまいそうだ。
一向に身体が冷めないじゃないか、こんなの。

「痛えな。舌がびりびり痺れる。可哀そうにな、ナマエ」

そう言って、俯いていた私の顎に手をやるとくいと持ち上げた。

「俺も一緒に痛くなってやるよ」

そう言いながら、端正な顔が近づいてくる。

私達の唇はもう何度目かわからないがまた重なった。
再びぬるりと兵長の舌が侵入してきて、私の舌に巻きつく。手はシャツの中で背中を撫ぜ続けた。

舌も食道も胃もまだびりびりと痺れていたが、それ以外のことに意識を持っていかれる。
痛みと痺れは頭の隅にだんだんと追いやられた。
体中に痛みから発せられていた熱も感じていたが、それを上書きするかのように、身体の中心をじゅんと熱くするような別の感覚が芽生えた。

極め付けは、私の脚の付け根辺りに感じた固体だった。ごり、という感触が私の陰部に押し付けられる。
瞬間、かああっと顔に朱が走ったのが自分でもわかった。まるで私の欲情を見透かされた上で、それに応えてもらっているかのような感覚を覚え、眩暈がした。

「……物欲しそうな顔してんじゃねえ」
「……!!」

は、と笑ったリヴァイ兵長は私をその腕から解放する。
声も出ない。
先ほどのように痛みで声が出ないのではない。感じていることを見透かされた羞恥だ。
自分の下着が濡れているのが自分でわかる。それすら見透かされているようで、恥ずかしくてたまらない。

「続きはまた後でな」

兵長はさらりとそう言うと、ジャケットを羽織り先に台所を出て行った。



ドアがぱたりと閉められ、兵長の姿が完全に見えなくなると、私は悶えた。

「〜〜〜〜っ、もう………っ」

真っ赤になっているであろう顔を両手で覆う。
この身体の熱は、唐辛子のせいか、あなたのせいか。



私は熱を冷ますため、蛇口から水を出し、顔をばしゃばしゃと洗うのだった。





【The Heat of Red Chili Pepper Fin.】




   

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