あと少しだよ





【お題内容】

「リヴァイの幼少期にヒロインが逆トリップ。めちゃくちゃ甘やかしてあげる夢。」


・地下街少年リヴァイ×一般兵士
・甘やかせなかった……!


トリップものというのを実はほとんど書いたことがなく
これでいいのか??と5億回くらい首をひねって書きました。
しかもお題に添えてないな!?甘やかせてないです……!ごめんなさい!
本当〜〜〜にお暇つぶしにでも読んでいただければ……!

リクエストどうもありがとうございました!!



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01



 瞼を開けた。
 その視界に混乱した。

 私の目に映った光景が、まったく見たことのないものだったのだ。
 見慣れた兵舎の天井ではない。そもそも木目ですらない。
 暗くて、でこぼこしていて……なんだか岩のような。まるで洞窟の中みたいな。
 ここは一体どこだろう?

 なぜだかあちこち痛む身体を動かしてゆっくり起き上がると、更に混乱した。
 もしかして本当に洞窟にいるのだろうか? そんな景色だ。
 自分が寝ていたのも岩の上だったようだ。道理で身体が痛いはず。
 それで、私はどうしてこんなところで寝ているのだろう。



 確か……昼休憩の時間、兵舎で仮眠していたと思ったのだが。兵服を着ているし、そのように記憶している。
 それがなぜか薄暗い岩の上にいるとは、どういうことだかよくわからない。
 とりあえず、ここがどこであるかを把握しなくてはならない。そう思い、辺りを歩いてみた。
 十数歩歩いたところで、光が見える。天から差し込む類の光ではない。この洞窟の内部から生まれる光だ。正確に言えば、人々の暮らし――営みの中で生まれる光が、そこにはあった。
 薄暗い辺りを必死に照らそうと設置された、無数の蝋燭。

 把握した。
 ここは、地下街だ。

 おそらく常設されているだろう蝋燭の灯りを頼りに生活する人々の姿が、眼前に広がっている。
 日も当たらず風も吹かない中で洗濯物を干す者。日光を浴びれないことで足腰が弱ったのか、地べたに座り込んでいる者。階段を下りてきた地上の人間に縋って物乞いをする者。
 私の視界にはそういう人達が映った。
 地下街に来たことはなかったが、その劣悪な環境は噂で聞いていた。地上と地下とを繋ぐ階段には法外な通行料が定められていて、地下の人間が地上へ出ることは難しいことも。
 実際に地下街を訪れたことはなくともわかる。このひどい光景は間違いなく地下街だ。聞いていた話と完全一致している。
 しかし、自分がどうして地下街にいるのかはわからない。兵舎にいたはずなのに。



 ブーツの下で乾いた音がした。歩いているうちに何かを踏んだようで、視線を下にやると、踵が踏みつけていたのは新聞紙である。
 何気なくブーツの下の新聞紙を持ち上げて、私はぎょっと目を剥いた。

「……832年!?」

 新聞に記載されている日付だ。832年、〇月×日。確かにそう書いてある。
 今は848年だったはずだ。832 年って……16年前!?

 混乱する頭で必死にこの状況を整理しようと試みる。が、とても整理できない。頭がぐるぐるする。
 私が今握りしめている新聞――地下街の地面に落ちていた新聞。これは、そう古くないもののはずだ。
 記載されている日付は今日のものではないかもしれないが、何年も前のものというわけではないだろう。
 もしこの新聞が何年も前のものだったら、もっと黄ばんで色褪せているはず。それに紙自体もボロボロに痛んでいるだろう。
 今手にある新聞は色あせているわけではないし、紙の傷み具合から考えても、年月を経たものとは思えない。どう古く見積もっても数日前のものだ。

 ……なるほど。これは現実ではない。
 私はもしかして夢を見ているのだろうか。
 が、しかし。ほっぺをつねっても叩いても目が覚めない。為す術なし。
 そうか、ここが夢の中だとしたら、夢の中にいる自分の意志では目覚めることができないのだろうか。例えば目覚まし時計とか、現実世界からの刺激じゃないと起きられないのかもしれない。
 であれば……自然と覚めるまで待つしかない、か……?



 とりあえず私は、辺りの散策を続けることにした。
 兵服を着ているせいか、地下街の住人たちからは妙な視線を向けられている。そりゃそうだ、調査兵が地下街に来ることなんてほとんどない。兵士で地下街に来るとしたら、憲兵だろう。
 それに私たち兵士は地上の人間であり、更に言えば税金で食べている公務員だ。地下街の住人にしてみれば鼻つまみ者に違いない。
 ……なんだか夢のくせに細部まで描写がリアルだ。



 歩いていると、喧噪が聞こえてきた。
 騒ぎのほうへと歩みを進めると喧噪の大元が見えた。ケンカだ。乱闘騒ぎが起こっている。

「……っ!?」

 思わず、目を瞠った。
 乱闘騒ぎの中心にいたのは一人の大人と一人の少年。二人が殴りあっている。
 大の大人と子供が対峙していることにももちろん驚くが、私が目を瞠ったのは、その少年に対してだ。
 彼は、我らが調査兵団の兵士長、壁の英雄、リヴァイ兵士長にそっくりだったのだ。

 兵長にそっくりと言っても、もちろん身なりはまるで違う。少年が兵服を着ているわけもなく、彼は首の伸びたぼろぼろの汚れたTシャツを着ていた。
 恰好だけではない。Tシャツの袖から出ている腕はガリガリに痩せているし、目は落ちくぼんでいる。多分栄養失調なのだろう。
 それでも、細い腕から繰り出されるパンチは鋭い。大人のほうが押されている。
 少年の身のこなしは、あの(・・)兵長を彷彿とさせるものだった。
 年の頃は……12、3という頃だろうか。どう年上に見積もっても10代前半であることには間違いない。



 リヴァイ兵長が地下街出身だという話は、耳にしたことがあった。
 当時私はまだ訓練兵団にいたが、リヴァイ兵長が調査兵団に入団した時には、地下街出身ということで随分と騒がれたらしい。
 もし仮に、この目の前の少年がリヴァイ兵長だとしたら……年齢の辻褄が合う。()が16年前だとしたら、リヴァイ兵長が少年であることも納得だ。
 だが、目の前の彼がリヴァイ兵長である証拠はどこにもない。他人の空似の可能性は高い。
 ……そもそもこれは夢のはず。夢に整合性を求めるのもおかしな話だ。



 素早く繰り出される小さな拳を腹のど真ん中で受け止めた大人は、ウッと呻く。
 そしてギッと少年を睨みつけると、唾を吐いて叫んだ。

「いつもいつも大人を舐めくさりやがって! いい気になってんじゃねえぞ、リヴァイ!」

 ――嘘でしょ。
 今、リヴァイって言った。
 ……この少年は本当にリヴァイ兵長なの!?

 混乱していると、大人のほうがナイフを取り出した。呼応するように、リヴァイと呼ばれた少年もナイフを取り出す。
 刃物を持ちだすなんて……それも大人のほうから。

「ちょっと……!」

 制止しようとした私の声は囃し立てる声にかき消された。前に出て止めようにも、二人を囲む人垣が邪魔で進めない。
 周囲の人が誰も彼らを止めないことに当惑していた。囃し立てる声は歓声に近い。
 ――こんなのおかしい。まるで、このケンカが日常のささやかな娯楽みたいじゃないか。

「ウッ」

 アルトとテノールの中間のような声で、少年はうめいた。
 人垣の隙間から必死に首を出して見ると、少年は右の太腿を刺されて出血していた。

「大人を舐めてっからこういうことになるんだ」

 自らを大人というにはあまりに大人気ない捨て台詞を残し、男は去って行った。
 勝負がついたことで、観衆もパラパラと散り始める。終わったら解散だなんて、本当に試合(ゲーム)――娯楽みたいで、はらわたが煮えくり返った。

「ちょっとどいて! リヴァイ兵長! 大丈夫ですか!?」

 私はリヴァイ兵長(仮)に駆け寄り、とりあえず兵服のジャケットを脱いだ。固い生地だがこれくらいしか止血できるものがない。ジャケットで彼の右太腿をきつく縛ると、赤黒い色がじわりとベージュに滲む。

「な……お前、だれ……」
「いいから! あの! 家どこですか!?」

 リヴァイ兵長によく似た少年は戸惑っていたが、捲し立てた私の勢いに負けたのか、大人しく指で方向を指し示した。
 蝋燭の灯りで、額の脂汗が光っていた。




   

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