かわいいひと





【お題内容】

「お相手/サラリーマンリヴァイさん
リヴァイさんと出向先でお寿司やさんに行くお話がえらく大好きでした……!鈴さんのリーマンリヴァイさんがまた拝見したい所存です……!できたら両片思いとかにして頂けると救われる命がここにあります。」


・現パロリーマンリヴァイ×部下夢主


リーマン……会社……と悩み、会社風景の描写がなんか多いお話になりました笑
私もリーマンリヴァイさん大好きなんです、上司になって欲しい!!

なんだか拙い感じのお話になってしまいましたが、楽しんで書かせていただきました。
読者様にも少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
(せっかくなので、好きだと言ってくださったお寿司屋さんに行くお話も、進撃短編にUPさせていただきました!)
リクエストどうもありがとうございました!!



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01



『弊社を志望する理由を教えてください』
『はい! 私は御社の取り扱う可愛い雑貨が大好きです! 可愛いモノに囲まれて、楽しく働きたいと想っています!』

 ……入社試験での、私の受け答えだ。

 まったく、こんな回答でよく面接を通ったと思う。
「可愛いモノに囲まれて楽しく働きたい」だなんて。当時の私の頭蓋骨をかち割って中を見てみたい。多分、脳みその代わりに生クリームが入っていただろう。
 だが入社してもうすぐ一年経つ今の私は、きちんと現実を知っている。
 もう頭蓋骨の中身は生クリームではない……と思う。



 私が就職したのは、全国チェーンの雑貨ショップだ。
 雑貨ショップといっても店舗スタッフとしてではなく、本社勤務の正社員として採用された。
 店舗スタッフとしての採用ではないが、会社の慣習として、新入社員は全員半年間店舗でスタッフとしての研修を積まされる。現場の最前線である店舗のことがわかっていなければ、本社での仕事なんて何もできないからだ。
 私も入社後半年間は店舗で勤務し、その後、本社・商品部へと配属された。



 我が社が展開する雑貨ショップは、徹底した「可愛さ」を売りにしている。「可愛さ」は幅広い層の女性達の支持を受け、会社はここ数年で急成長した。今や全国に数百店舗を展開する巨大チェーンである。
 雑貨ショップといっても、取り扱っているのはインテリア雑貨だけではない。
 調理器具や皿・グラス等のキッチン雑貨、タオルも含めたバス・トイレ雑貨、洗濯ピンチやハンガー等のランドリー雑貨、その他にもアクセサリー、コスメ、モバイル用品、子供用玩具など、商材は幅広い。
 その商材全てに共通しているのが「可愛い」ということ。可愛くない商品は、弊社の店頭には並ばない。
 そうやって作り上げられた店舗に私も魅せられた。だから入社を希望したのだ。

 その「可愛い」の後ろ側――本社で働くことが、こんなに泥臭くて、そして汗臭いことだなんて!

 店舗スタッフは女性が多いが、本社に勤める社員の大半は男性だ。もちろん取り扱う商材が女性向けなので、本社にも女性社員はいる。だが少ない。
 会社側も女性社員の採用に消極的なわけではないのだが、雑貨、つまり「物」を扱う仕事はとかく体力勝負になりがちだ。結局長く勤めるのは、体力のある男性が多くなってしまっているらしい。

 私は今本社の商品部で、先輩バイヤー、ゲルガーさんの補佐として働いている。
 具体的な仕事内容は、電話応対、プレゼン用資料のプリントアウト・ホチキス止め、各店舗やお客様からのクレーム処理、製品にミスが見つかれば修正対応、商談時のサンプル持ち、各店舗へのサンプル出荷、などなど。
 まあ雑用だ。新入社員なんてそんなもんなのだろう。いつかは私もバイヤーに、という夢はあるが、夢は遠い。遙か彼方だ。
 夢の前には数多の雑用をこなさなければならない。雑用は途切れることがない。毎日死ぬほど忙しい。
 そして、私の仕事のどこにも「可愛い」要素がない。悲しい。



 * * *



「おい、ナマエ!」

 ゲルガーさんが怒鳴るように私を呼んだ。
 怒っているわけではない。鳴り止まない電話の音とタイピング音で、フロアはいつも喧々囂々だから、怒鳴らないと会話が通らないのだ。
 こんなところも可愛くないなと思う。うふふと微笑んで優雅なオフィスライフが過ごせると思っていたのに、実際のオフィスは戦場だ。

「マーレ商事からのサンプルが届いているはずだから持ってきてくれ! 午後のミーティングで使うんだ! 量が多いから台車使えな!」
「はーい!!」

 ゲルガーさんに負けず劣らずの大声で返事をする。
 商品部から廊下へ出ると、電話の音とタイピング音がない分、ほんの少しだけ静かになった。



 うちは雑貨という「物」を売る会社だから、社内は「物」に溢れている。特に1階の宅配便置き場はひどい。
 宅配便置き場には棚が設置されており、宅配業者さんは荷物を棚へ置いて行く。
 だが、いつも荷物が棚の外へと溢れ出しているのだ。

「よっと……」

 床を埋め尽くす荷物の隙間を縫うように進み、棚を目指す。
 この宅配便置き場はいつもこんな感じで、棚だけでなく床まで荷物で埋め尽くされていた。

 荷物の多くは、メーカーさんから送られてきたサンプルや、工場から送られてきた開発途中の試作品、店舗やお客様から送られてきた不良品などである。
 もちろん送られてきた荷物は担当部署が引き取っていくわけだけれども、とにかく送られてくる量が多すぎて間に合っていない。荷物を置くための棚が設置されているのに、物が多すぎて棚に載りきらないのだ。
 だからいつも宅配便置き場の床は、棚に置ききれなかった段ボールで溢れかえっている。そして私は、しょっちゅうこの段ボールの海でゲルガーさんの荷物を漁っている。

 ああもう、全然、まったく、可愛くない。
 段ボールに塗れている私は、100%可愛くない。

 まあ、可愛くなくても仕事は仕事だ。大きなため息をついてブラウスの袖を腕まくりする。
 この段ボールの海をかき分け、ゲルガーさんの荷物を探さねばならない。えーと、マーレ商事マーレ商事……

「……ゲッ」

 思わず口から可愛くない声が漏れ出た。
 嘘でしょ、これ?

 床に広がる段ボールの海から見つけた、「マーレ商事」の文字。
 箱が結構……でかい。しかも一つじゃない。三個口である。

「……っっ!!」

 そして、重い!! 持ち上げようとしたがあまりの重さに手を離してしまった。これは、不用意に持ったら腰を痛めるやつだ。
 ゲルガーさんはサンプルと言っていたが、一体何のサンプルが入っているんだろう。
 疑問に思い送り状の品名欄を見ると、「スキレット サンプル」と書かれていた。
 ……スキレットか〜!! 鉄のかたまりスキレットがこんなでかい箱に詰まっていればそりゃ重いわ!!
 せめて軽量アルミフライパンくらいであれば良かったのに! ていうかスキレットをこんなでかい段ボールに詰めるな!!

 送り元の不親切を一頻り脳内で罵って、さて困った。このスキレットの詰まった段ボールを持ち上げなければならない。
 台車は持って来ているけれど、段ボールで埋まったこの宅配便置き場では、入り口までしか台車を転がせなかった。ここから台車までは数メートルある。数メートル先の台車まで、この段ボールを運ばなければいけないのだ。
 文句ばかり言っていても仕方ないので、無理を押して段ボールの下に手を入れる。
 無理やり持ち上げ……めちゃくちゃ重いけど、なんとか持ち上がった。取り敢えず一箱ずつ、ゆっくりと……

「きゃっ!?」

 パキッと音がして、足元がぐらついた。
 履いていたパンプスの左足、ヒールが折れたのだ。

 ――嘘でしょ!



 バランスを崩してから尻餅をつくまでの間は、スローモーションのようだった。

 ああ、お気に入りのパンプスだったのに。お気に入りの7cmヒールだったのに。
 この可愛くない仕事の中でも、せめて格好だけでも可愛さを忘れないようにと、身だしなみには気を使ってきたのに……。
 違う、そんなことよりもだ。今からスキレットという鉄のかたまり×(かける)一箱分が足の上に落ちるのだ。怪我……打撲じゃ済まないかもしれない。捻挫かも。

 不思議なことに、倒れるまではほんの一瞬であるはずなのに、一瞬のうちにめちゃくちゃたくさんのことが頭を巡った。
 まるで走馬燈のようにゆっくりと。いや走馬燈の経験はないのだけれど。
 そうして私は段ボールの海の上にドシンと尻餅をつき、
 ――だが、いつまでたってもスキレットは落ちてこない。



 尻をついた私は、きつく瞑っていた瞼を恐る恐る開けた。

 目に入ったのは、片手に段ボールを抱えた小柄なシルエット。蛍光灯の逆光になっている。
 尻餅をついたままその影を見上げると、ワイシャツが肘までたくし上げられている腕が、スキレットの詰まった段ボールを軽々と抱えていた。

「おい、大丈夫か」

 この人、知ってる。有名人だから。
 有名人だし……それに何より、入社してからずっと憧れている人だから。

「す……すみません! リヴァイ課長……!」

 スキレットに潰されそうだった私を助けてくれたのは、店舗管理部のリヴァイ課長だった。




   

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