俺達の三日間戦争





【お題内容】

「お相手はリヴァイさんで現パロ。
大学時代から付き合っている彼女と同棲中でそろそろ結婚を…と考えているけど多忙でなかなかプロポーズ出来ず。そんな中彼女の妊娠が発覚して彼女は何度も伝えようとするけどすれ違いで告げられず。ある日些細なことで大喧嘩になって別れ話になってしまう。その後少し仕事が落ち着いたころに部屋の掃除をしていたリヴァイさんがエコー写真を発見して彼女を必死に探しに行って無事見つけてひたすら謝って…最後はハッピーエンド。」


・現パロ塾講リヴァイ×同い年パン屋夢主
・モブ→リヴァイ表現あり
・夢主の妊娠描写がっつり
・嘔吐描写がっつり


属性盛り盛りになってしまって、めちゃ長いお話を書いてしまいました!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

リクエストどうもありがとうございました!!



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01



 町外れの住宅地に小さな産婦人科がある。規模こそ小さいが、出産設備の整った良い病院であると評判だ。
 私は今日、初めてここに来ている。
 今まで婦人科系の病気とは無縁だったし、無精も手伝って29だというのに婦人科系の検診も受けたことがなかった。
 古くて狭く、だが清潔な診察室。年配の医師は、キャスター付きのオフィスチェアをくるりと回しこちらを向くと、肘掛けに肘を置いて穏やかに言った。

「心拍確認できました。妊娠7週目ですね」

 そう言って医師が私に手渡したのは、白黒のエコー写真である。

 エコー写真。テレビドラマでは見たことがあるが、実物を見るのは初めてだ。
 テレビで見た時にはもっと人影っぽいものが写っていた気がするが、今私の手元にある写真は不鮮明で、一体何が写っているのかよくわからない。

 妊娠、7週目。にんしん。ニンシン。
「妊娠」という言葉の意味は理解できるのだが、どうにも腹に落ちてこない。
 ニンシン? 私が?

 唖然としていると、医師は不鮮明な写真を指差しながら早口で説明を始めた。

「この小さな丸いのが胎芽。8週目未満の赤ちゃんのことは胎児と呼ばず胎芽と呼ぶんですよ。
 胎芽にくっついている白っぽいリングみたいのが卵黄嚢で、その周りの黒い丸が胎嚢。赤ちゃんの入っている袋ですね。今のところ問題なし、正常妊娠です。
 で、産みます?」

 夕食何にします? みたいなテンションで尋ねられた、重い質問。

「産みます」

「妊娠」が腹に落ちていないというのに、私の脊髄は即答していた。
 間髪入れない答えを聞いた医師は、そこで初めて「おめでとうございます」と微笑んだのだった。



 * * *



 同い年のリヴァイと付き合い始めたのは、二人が19歳の時だった。
 早いものでもう丸十年も付き合っている。自分でもびっくりだ。
 付き合い始めた時は大学一年生だった私達も、今や立派な社会人である。それも新人じゃない。
 29歳ともなれば、ベテランとは言えずとも中堅と呼んで良いだろう。付き合っている十年の間に、私達はすっかり大人になってしまったというわけだ。

 5年前から同棲をしている。
 二人の生活は、優しくて穏やかで温かい。だがマンネリ気味だ。
 別にマンネリが悪いとは思っていない。マンネリとは即ち安定しているということなのだから。というか、十年も付き合っていてマンネリじゃないカップルなんてこの世にいないと思う。
 マンネリであっても私は幸せだし、きっとリヴァイもそう思っていると思う。
 私達の間に確固たる愛情があることは、間違いがないのだから。



 で、だ。
 妊娠である。

「マンネリ」なんて一瞬で吹き飛んでしまった。リヴァイも知れば、きっとマンネリどころじゃなくなるはずだ。

 交際十年、そして二人とも30歳間近。
 この状況では無理もないが、無遠慮な周囲の人間から「結婚しないのか」とせっつかれたことは何度もある。少なくとも両手指の数じゃ足りない。
 結婚を意識していないわけじゃない。多分、二人とも。
 私達は恋人としてもパートナーとしても上手くいっているし、同棲してからだって、小さな諍いはごく稀にあれども、生活はとても円滑に回っている。結婚するならこの人だという気持ちは互いにあるはずだ。

 だが、タイミングが合わなかった。
 リヴァイの仕事が忙しいこともあったし、私の仕事が忙しいこともあった。二人揃って忙しいこともあった。
 仕事が然程忙しくない時でも、親戚に不幸があっただとか実家が引っ越しただとか、とにかく「結婚するならもう少し落ち着いてから」という出来事が定期的に起こっていたのである。
 そうしてそのまま今日に至り、妊娠が発覚した、と。

 妊娠なんて結婚する切っ掛けの最たる物というか、これ以上のものはない。
 誤解のないように言うが、私が妊娠を「狙った」ことは一度もない。これはまったくもって予想外の展開だ。
 古い人間であれば、順番がどうとか言う人もいるのだろう。だが私はそんなことまったく気にしない。
 だって元々結婚するならリヴァイしかいないと思っていたし、子供だってリヴァイとの子供しか考えられなかった。結果が同じなら順序なんて些事だと思う。
 きっと、長いこと結婚のタイミングが掴めなかった私達に、神様が切っ掛けをプレゼントしてくれたのだ。そうに違いない。

 口の端が自然と上がる。
 ――嬉しい。リヴァイと私の子供がお腹にいるだなんて。嬉しすぎる。
 どうやら、ようやく私は「ニンシン」が腹に落ちてきたらしい。



 赤ちゃんができたことをリヴァイは絶対に喜んでくれるだろうけれど、せっかくならシチュエーションを整えて最大級に喜ばせたい。サプライズってやつだ。
 そうと決まればプランを練らなければ。
 いつ? どこで? どうやって? 

 ここで問題になってくるのが、私とリヴァイのライフスタイルである。

 リヴァイの職業は塾講師だ。大学受験を控えた高校生を相手に数学を教えている。
 学校帰りの高校生を相手にする仕事だから、勤務時間が一般的な会社員とは違う。始業時刻は13時。リヴァイはいつも家で昼食をとってから出勤している。授業が始まるのは16時からだが、13時から16時までは授業準備や事務仕事を行っているそうだ。
 最後の授業(コマ)が終了するのが21時30分、終業時刻は22時。家に着くのは早くても23時前だ。残業をすればもっと遅くなることもある。

 実は私のほうも、一般的な勤務時間ではない。
 私の職業はパン職人である。製パン専門学校を卒業後、大手チェーン店のベーカリーに就職した。今は自宅から徒歩15分の店舗で店長をしている。
 パン屋は朝がとにかく早い。始業時刻は朝の5時、終業時刻は昼の13時だ。たまにパートさんやアルバイトさんとの調整で勤務時間がずれることもあるけれど、基本的には早朝から昼過ぎまでの勤務で固定となっている。
 そう、リヴァイは朝も夜も遅い仕事、私は朝も夜も早い仕事なのだ。

 そういうわけで、私は夜リヴァイの帰宅を待っていることはできない。朝4時前には起きなければいけないから、いつも21時頃には寝るようにしている。リヴァイが帰ってくるのがだいたい23時頃だが、その頃私はぐっすり夢の中だ。
 リヴァイの就寝時刻は午前1時くらいだと以前聞いたことがある。私が起床する朝の4時は、彼のほうがぐっすり夢の中である。
 起床後、すぐ横にリヴァイの寝顔がある生活は悪くない。リヴァイの寝顔はとっても好きだ。
 でも平日はほとんど二人の時間を持つことができず、互いの寝顔しか見ることができない。
 あまりべったりくっつきすぎないほうが長く続けるには良いと思うけれど、ちょっと寂しい気持ちはある。リヴァイも私も週休二日だが、休みが重なるのは日曜日だけだ。二人とも貴重な日曜日の休みを死守し、デートや買い出しなんかはその日にするようにしていた。



 さて、リヴァイにどう伝えよう。いつ伝えよう。
 うん、やっぱり今日すぐに言いたい。幸い今日は非番でこの後も仕事はないし、リヴァイが帰ってくるまでにサプライズパーティーの準備を整えようか。
 明日は仕事でいつも通り4時起きだが、今日だけはリヴァイが帰ってくるまで待っていたい。昼間のうちに少し仮眠を取れば、明日一日くらいはなんとか乗り切れる気がする。
 産婦人科の帰り道は、そうやって楽しい悩みに頭をフル回転させていた。

 そうだ、せっかくだからリヴァイの塾の前を通って帰ろう。そう思い立ったのは完全に気まぐれだ。
 時刻は13時を回っている。リヴァイはもう出勤しているはずだ。私は非番で午前中から産婦人科に行ってきたわけだが、リヴァイは勤務日である。
 塾の前の道を通ったところで塾の中にいるリヴァイには会えないだろうが、とにかく気持ちが逸って仕方がない。弾むような跳ねるようなこの気持ちが、どうにも納まらない。

 春の終わり、夏の初め。キラキラと日差しがきつい今日は少し暑いくらいだ。
 その上、先ほどお腹の中の存在を認識してからは、身体の中に今までになかった熱を感じている。
 少し額が汗ばむのは暑さのせいだろうか、興奮のせいだろうか。
 きっと両方だ。




   

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