第二十四章 拘束





03




私はいつの間にか自分の独房へ戻ってきていた。
気が付いた時には、元の独房の壁の手枷に両手を拘束されていた。

石造りの床は冷たく、尻から冷える。水責めのせいで濡れているから尚更だ。

目が覚めて、今はいったい何時なのか、あれからどのくらいの時間が過ぎたのかわからず、不安になった。
とりあえず着ている服はまだびしょびしょだ。あの水責めからそんなに時間が経っていないのだろうか。

そこへ、コツコツという足音と楽しそうな話し声が聞こえてきた。
複数の人間がこちらへ向かっている。
また水責めか、と、恐れ戦く。

正直さっきの水責めによく耐えられたと思う。いっそ死んでしまいたいほど苦しかった。
だが、死ねはしない。耐えるしかない。
自ら死ぬなどしたら、今まで散った仲間に申し訳が立たない。
私だって色んなものを犠牲にしてここまで来たのに、それを無にするつもりはない。

足音と話し声は私の牢屋の前までやってきた。

「えーっと、あなたがぁ〜ナマエ・ミョウジさん!」
「俺らよりだいぶ年上だよな? でも美人〜!!」
「金髪のロングヘアって話だったんじゃねえの? ま、いっかぁ顔は最高だし」

三人の男の軽薄な声が、牢の中の私に向けられた。
憲兵だ。しかし、若い。
新兵……とまではいかないだろうが、せいぜい二年目か三年目かくらいではないのか?
私は「俺らよりだいぶ年上」らしいから、多分そうなのだろう。

三人の憲兵は鍵を使って私の牢を開け、中に入ってきた。いやらしい笑顔のままこちらへ向かってくる。
……酒臭い。酔っているのだ、彼らは。

「つーか、シャツ、びしょびしょですよ〜ブラ、透けちゃってますよ?」
「濡れてると寒いだろ? 脱がしてあげるね」
「おい、手枷の鍵って手に入らなかったんだっけ?」
「ああ、でも手は壁に括りつけられたままでもいいだろ。突っ込むには問題ないだろ?」

ちょっと、ちょっと待って……私は調査兵団解散後に、貴族様達に献上されるから、今は傷つけてはいけないんじゃなかったのか? 
この男達がこれからやろうとしていることに血の気が引いた。
男達の胸元を確認すると、今度は中央憲兵ではない。ただの若手憲兵ということか。
だとしたら、さっき聞いた貴族に献上云々の中央憲兵の指示が通ってないのかもしれない。これは中央憲兵による尋問ではない。酔っぱらった若手憲兵のただの暴走なのだろう。

男達は私のシャツに手をかけ、ボタンを上から順に一つずつ外していく。
足で蹴り上げてやろうかと思ったが、足に力が入らない。されるがままに服をはだけさせられる。
手枷の鍵がないためシャツを腕から抜くことができず、ボタンを外され前で開かれたシャツは私に羽織られたままだらりと垂れた。
胸部のブラジャーは後ろのホックをはずされ、そちらも腕から抜けないが、抑えを無くした私の乳房はぽろんとこぼれた。

「胸、思ったより大きいね〜。ていうか、さすが調査兵、腹筋割れてんじゃん!」

軽薄で楽しそうな声でそう言われた。

そりゃあね、毎日訓練してますからね。あなた達憲兵様と違って。
口には出さずに心の中で言う。

ベルトはここに拘留される時に取り上げられていた。シャツの次はこちらと、男達は私のズボンと下着に手をかけ足から一気に引き抜いた。
薄い茂みに覆われた秘部が外気にさらされる。

「おお〜!!」

下品な歓声があがる。私は彼らを見上げて睨み付けた。

「お? なんですか〜? 調査兵団第三分隊長、ナマエ・ミョウジさん?」
「あんた達犯罪者は、せいぜい俺達憲兵様の慰み者になってくださーい」

私の抵抗の意に気づいた男は、挑発するように私を見下ろしそう言った。

「あんた、エルヴィン団長の犬なんだってな?
あんなおっさんじゃなくて若い俺らが相手してやるんだから、喜んでくれよ!」
「……違うわ、私はエルヴィン団長の女じゃない」

静かに、そう口にした。

「じゃあ誰だってんだよ?」
「おい、俺はリヴァイ兵長の女だって噂で聞いたぞ」
「ああ? そうなのか?」

男達の無駄話は下世話でしょうがない。
彼らはそのくだらない話をしながら、ズボンを脱ぎ下半身を露出させた。三人で順番に 輪姦 ( まわ)すつもりだ。

「良かったな、リヴァイももうすぐここに来るぜ。指名手配されて顔まで新聞で晒されてんだから、見つかるのも時間の問題だろうよ」
「……!?」

男のその言葉に私は息を呑んだ。
下半身を露わにした間抜けな姿の男に、私は食いついた。

「ちょ……指名手配ってどういうこと!? 新聞で顔が晒されてるって……!?」

急に慌てふためいた様子の私を、男達は面白そうに見る。

「なんだ、慌てて。あんたやっぱりリヴァイの女だったってことか」
「ねえ教えて! 指名手配ってなんなの!? 兵長はまだ捕まってないのね!?」
「全調査兵に出頭を命じてるんだから、出頭してこないやつは全員指名手配に決まってんだろ!」

そう言って男の一人は、私の眼前に自らのそそり立ったものを持ってきて見せつけた。
てらてらと光るそれは男の匂いを発して、不快極まりない。
男はしゃがみ込むと、私の頤に手をかけ上を向かせた。

私は精一杯睨み付ける。
身体に力は入らないが目には力を込められる。全力で敵意を目に宿した。

「あんなちっさいおっさんより、俺らのほうが長いし太いし固いって。具合いい筈だぜ、安心しろよ」

にやにやと笑ったその男は、ほぼ全裸の私に口づけようと顔を近づけた。

「……それはどうかしらね」
「……ああ?」

静かに抵抗した私の言葉を聞き、男は顔を近づける行為をぴたりと止め頬を引き攣らせた。
自らの身体を侮辱されたと思ったのだろう。

「あんた……ナマエさんよ……あんま舐めた口きいてると、咥えさせるぞ?」
「やってみなさいよ、喰いちぎるから」
「……ってめえっ!」

一発拳で殴られる。
私の顔は右に大きく振られた。しかし手枷で拘束されているため、身体が吹っ飛ぶことはなく、私はすぐに体勢を元に戻した。
怯ませる意図を明確に持って、男を見つめる。

睨め。射るように。
手を出してみればいい。
例えあんた達に良いように蹂躙されたって、絶対に調査兵団に不利になるようなことは吐かない。

男は私の視線に怯んだのか、その股間のものはだんだんと萎み小さくなっていった。

「……あれっ、おかしいな、あれっ」

萎えてしまった自らのものの姿に慌てたのか、男は再度立たせようと一生懸命手でしごいた。
だがものは言うことを聞かず、生気を失った切り花のように萎れる一方だった。

「お、おい、お前先にやっていいぞ」

そう言って、後ろで待機していたこれまた下半身を露出させた男に順番を譲る。
譲られた男はラッキー、と言いながら、萎えた男と入れ替わりに私の前に膝をついた。そして私の足を無理やり開かせる。秘部が男の前に露わになった。
私は相変わらず睨み付けていたが、今度の男は私とは目を合わせない。
眼前の私の性器だけを見ている。

「大丈夫、すぐ気持ち良くなるって」

そう言って自らの肉棒を右手で支え、私の膣口に宛がおうとした。

「せいぜいリヴァイのことでも考えてな」

私は自分を奮い立たせ男を睨み続けていたが、とうとうぎゅっと目を瞑り、顔を背けてしまった。

その時だった。

「お前ら! 何やってる!?」

牢に男の怒鳴り声が響く。三人の男達は一斉に声のするほうを向いた。

「ナッ……」
「ナイル師団長!!」

私の牢にやってきたのは、エルヴィン団長の同期、ナイル・ドーク師団長だった。




   

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