第二十四章 拘束





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* * *



私が入れられたのは独房だった。周りの牢には誰もいない。
憲兵達の話から、どうやら他の調査兵達は複数人まとめて牢に入れられているようだったが、エルヴィン団長と幹部である私は、他の調査兵と接触させないよう独房に入れられたらしい。
ハンジ班とリヴァイ班はまだ捕まっていないことも、彼らの会話から察せられた。ほっとした。

湿度が高くかび臭い牢屋で、私は両腕を壁に備え付けの手枷で拘束されていた。
足は自由だが、無駄だ。脱走なんてできそうにない。
だいたい脱走したら、残されたエルヴィン団長はどうなる。

やっと兵舎に帰ってきてナマエに戻れたと思ったらこれだ。
第三分隊長ナマエ・ミョウジは、何故だか知らないが憲兵に独房へぶち込まれた。全くひどい仕打ちである。

時計がないので何時間経過したかはわからないが、牢に入ってから少なくとも数時間は経ったという頃、コツコツという複数の足音がして憲兵がやってきた。
ガシャガシャと鍵が開けられ、ぎいという錆びた音と共に憲兵が数名中に入ってくる。

「第三分隊長、ナマエ・ミョウジ。出ろ」

憲兵達の胸元を確認すると、やはり中央憲兵だった。
私は手枷を外され、代わりに後手で手錠をかけられる。
立ち上がり、前後と両脇を中央憲兵で固められ歩かせられると、別の部屋へ連れて行かれた。

牢と同じく石造りの地下であるその部屋には、机が一台と、それを挟み合う形で設置されている椅子が二脚。
そして木製の浴槽のようなものがある。中には水が張られていた。
私はそれが何の用途に使われるのかに思い至り、ぞっとした。

「座れ」

着席を促されたので素直に従うと、机を挟んで正面に中央憲兵が一人座った。

「可哀そうになあ、ミョウジ。お前のところの親玉がいつまで経っても認めねえから、次はお前だ」
「……」

私はせいぜい睨み付けることくらいしかできない。

「ディモ・リーブスを殺したのは調査兵団だな?」
「違います」

即答した。

「ミョウジ、お前がやったとは言っていない。お前以外の誰か別の調査兵がやったんだろ?」
「違います」
「……じゃあ質問を変える。調査兵団は王政に敵対感情を持っているな」
「違います」

その後、少なくみても一時間は経過しただろう間、語気を変え口調を変え、その三つの質問を繰り返し尋ねられた。
私は全てに即答で否認した。
いい加減疲れて来たのか、尋問する側の憲兵も嫌な顔をしている。

「……ミョウジ、恐れ入るよ。よく躾の行き届いた雌犬だ」

思わず、愚弄されたことに反応してしまった。
こういう時に反応するのは相手に隙を見せるだけだから、今まで淡々と答えていた。しかし犬と罵られ、さすがに眉を動かしてしまう。

「違うのか? ミョウジ。お前はエルヴィンの雌犬だろ?」
「……違います」

駒になった覚えはあるが、犬になった覚えはない。
ビッチなどと愚弄されて腸が煮えくり返ったが――つい昨日までローゼマリーだったことを思い出して、いや、自分はビッチかもしれないと思い直した。
それにしたって、自分が勝手にビッチなだけで、別にエルヴィン団長に飼われているわけではない。

「またそれか。『違います』。馬鹿の一つ覚えだな。
エルヴィンじゃなきゃ誰の雌犬だってんだ? 金髪の色男に飼い馴らされちまったか?
お前は賢い女だと噂で聞いていたのだが、残念だ」

そう言うと憲兵は立ち上がる。

「立て」

私は腕を引っ立てられ、立ち上がらせられた。そして木製の浴槽に向かう。
これから何が始まるのかを察した私は思わず引き攣った。

耐えろ。耐えなければならない。
きっとエルヴィン団長も耐えたはずだ。

「お前みたいな綺麗な顔した女に、本当はこんなことしたくないんだがな。仕方ない。お前が認めないんだからな」

そう言って私の後頭部を掴み――私はその瞬間息を大きく吐いて吸い――浴槽に押し付けた。
水責めだ。

なるべく声をあげないように、体力を消耗しないようにするが、なかなかうまくいかない。ザバンッと大きな音がした。

「……がはっ、はっ、はっ」

しばらく押しつけられていた頭を浴槽から引き上げられ、私は全力で呼吸する。
数秒後にもう一度、派手な水音と共に浴槽に押し付けられる。

「言え、ミョウジ。ディモ・リーブスを殺したのは調査兵団だな?」

もう一度頭を引き上げられた。

「……はっ、かはッ、ちが、う」

否定した瞬間頭はもう一度水の中に突っ込まれる。
何度も何度もそれを繰り返され、疲労のせいもあり、呼吸するタイミングを失敗した。浴槽の中で鼻から水が入ってしまった。

「ゲホゲホッゲホッゲホッ」

気管支に思いきり入った水を何とか出そうと、私の体は大きく咳き込んだ。
呼吸困難も相まって、私は石の床に倒れ込んだ。

「おい、気を付けろ。殺すんじゃねえよ」

奥から別の憲兵の声がする。

「ああ、そうだな。つーか、なんで水責めなんだ? めんどくせえじゃねえか、こっちも濡れるし。雌犬には雌犬の啼かせ方ってもんがあるだろ」

そう言った憲兵は、自らのベルトをカチャカチャと音を立てて外そうとした。
最悪だ。
そう思ったが、また違う憲兵が止めに入る。

「やめとけ、ダメなんだ。この女は辱めるなと上からのお達しだ」

……どういうことだ?
なんだか知らないが助かった。

「あ? なんでだ」
「調査兵団が解体された後、この女は上層部に献上される。その時まで必要以上に傷をつけるなとさ」
「そうか、それで跡が残らない水責めってか。そうだとしても、どうせ処女じゃねえだろうになあ。まああの貴族様達と穴兄弟ってのも、ぞっとしねえしな」

――訂正。やっぱり最悪だ。

「な、ミョウジ。見目麗しいってのも大変だな。お前の飼い主が首を括った後は、貴族様達が新しい飼い主だとよ」

憲兵はもう一度後頭部を掴む。

首を括るってどういうことだ。
エルヴィン団長、今ご無事ですか? 
――兵長、あなたはご無事ですよね? ねえ? 

私は浴槽の中で意識を失った。




   

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