今の日常 19.自称と本性     8/8
 

十番隊三席沢田綱吉。彼は元十一番隊である。
武闘派揃い、寧ろ武闘派でなかったら十一番隊とは言えない、とさえ称する事が可能な、戦闘集団。それが十一番隊である。そんな十一番隊で四席を務め、かつ、隊士から信頼もされていたのだから綱吉の実力は折紙付きである。
自称平和主義で、実際普段は事務仕事に対して厳しくも、率先して争い事を起こす事はない。争いの種になる事も多い十一番隊の隊士を考えれば、それだけでも他の隊からすれば助かる。
しかし十一番隊にいる間、一度も綱吉の自称平和主義の『自称』が取れる事はなかった。
理由は簡単。

暴れる奴には拳で語れ。

沢田綱吉は、理不尽に暴れる者、禁句を言う者、自分の理念に反する者には、恐ろしい程手が出るのが早かった。
性根はやっぱり十一番隊。彼の幼馴染である白髪の青年は、「綱吉君も『前』と随分変わったよねぇ。愉快になったよ」と語る。
赤毛の後輩を一角と一緒に指導していたのも、彼自身動いている方が好きだという現れの一つだろう。本来は彼だって書類仕事は性に合わないのだ。綱吉と一緒に書類仕事の主戦力だった綾瀬川弓親にも同じ事が言える。

そんな綱吉は十番隊に来て、運動量が減った。
勿論ながらなくなったのではない。死神という職種柄、訓練は義務のようなものだし、それを拒否するほど綱吉は平和ボケしていない。身体を動かすのも嫌いではないから、訓練は真面目にしている。
しかし、少しばかり物足りなく感じてしまっているのが現在の沢田綱吉だった。





「いや、俺は脳筋じゃないんだけどさ。あんだけ毎日の様に書類仕事を逃げ出してる奴を追い掛けて捕まえてさ。それプラス訓練でしょ、白打大会でしょ、鬼事もどきでしょ、その他色々やってたからさ」
「寧ろ、それだけやってよく書類出来たわね……」
「いやいや、乱菊さん。そういうので鬱憤晴らさないと書類仕事なんてやってらんないよ?」

多くの人が賑わう、仕事後の飲み屋。其処には綱吉と乱菊の姿があった。

「何ていうか、それが日常だったのが悪い!」
「十一番隊、書類回ってくるの遅いからねぇ。ツナの苦労もちょっとは分かるわ」
「いや、俺の苦労が分かるのは乱菊さんよりも隊長でしょ」

十番隊の最年少隊長である銀髪の少年は、しょっちゅう逃げ出している目の前の副隊長に青筋を浮かべるのが常だ。それもこの副隊長は上手い手口で逃げるから、なかなか阻止出来ていない。少年の隙を突くのはこのお姉さんには楽勝なのだろう。

「年の功か……」
「何か言った?」

不穏な気配がしたので大人しく否定しておく。ついでに酒を継ぎ足してあげれば、追求してこないのは乱菊の良い所だ。もしも一角に「ハゲ」と言おうものなら、問答無用で喧嘩勃発だ。一角は短気である。

そして、綱吉がそんな事を考えているのは乱菊も承知の上だ。最も彼女はそれに止まらず、綱吉も禁句を言ったら問答無用なのを知っている。綱吉も普段から想像出来ないくらいには短気なのだ。
仲間思いでフェミニスト。子供だって好きで、面倒見も良い。綱吉は全く関与していないが、密かにファンクラブだってある。それでも彼は元十一番隊。

「ツナって結構好戦的よね」
「まさか!え、何でそうなるの!?」

そりゃぁ、彼は避けられる戦闘は避けるだろう。
野党や強盗でも、戦わないに越した事はない。虚(ホロウ)は戦うしかないが、彼は戦場で命を賭けるのが好きなのではない。それは戦う彼の姿を見ていれば分かる。眉間に皺が寄っているのだ。

彼が戦う時に辛そうに皺を寄せていないのは、例えば、後輩を鍛えている時。
例えば、一角をぶん殴ろうと追い掛けている時。
例えば、十一番隊の小さな副隊長の悪巫山戯に付き合って隊士をからかっている時。

「俺って平和主義だよ?」
「それでも好戦的よ」

乱菊は再び杯を傾ける。これでまた一本酒がなくなってしまった。

「店長ー!酒追加ー!」
「ちょ、まだ飲むの!?明日も仕事っ!?」
「うっさいわねぇ。良いじゃないの!あっ、あとツマミもねー!イカ焼き一杯!」
「はぁ……二日酔いになっても知らないよ?」

沢田綱吉の一般的な評価は、十番隊に来た今、平和主義者になりつつある。それでも自称平和主義者だ。自称は取れない。

「隊士諸君ー!此奴の甘いマスクに騙されるなー!」
「ちょっ、何言ってんのこの酔っ払い!」

騙されてはいけないのだ。此奴は、十一番隊気質。未だに十一番隊に此奴を慕う奴だっているのだ。

「涼しい顔しやがってー!」
「絡み酒止め!ほら、サッサとその酒瓶置いて!帰るってば!」







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武闘派に囲まれて逞しくなったツナさん。
この乱菊さんは、きっと市丸と何かあって不機嫌だったんじゃないかな。



20131117



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