昔の日常 18.書類仕事と主戦力     11/11
 




良い例を上げよう。
班目一角。御挺十三隊、十一番隊三席。
武闘派揃いの十一番隊で、上から数えて三つ目の席を賜っているのだから、その実力は全隊員の中でも指折りである。
しかし、彼には欠点があった。
――頭が悪いのである。

「せめてまともな報告書を書いてくれたらな……」
「一角が字を書けるだけでも奇跡でしょ」
「副隊長と同レベル」

一角だけではない。頭が悪い――いや、ここでは事務仕事が苦手、と言った方が良いだろう、それは十一番隊の殆どの隊士に言える。
フォローをすれば、隊士達は基本的に良い奴等である。隊長や上位席官には尊敬を持って接するし、戦闘ともなれば目を生き生きとさせて「隊長に続けェェェェェ!」と勇ましく戦う。その時も前に出過ぎて隊長の攻撃に巻き込まれるという事も……あまりない。たまに四番隊に運ばれる奴もいるけど、彼等は運がいい事に学習する奴等だ。

「てかさ、おかしいでしょ。実力主義ってレベルじゃないでしょ。脳筋馬鹿ばかりってどうよ。そう思わない?綾瀬川五席」
「その議論はもう三十四回繰り返したよ、沢田四席」

要するに、書類仕事がまともに出来る者が少ない。それは席官にも当てはまる。もし持って行っても書類が滞る事も多く、提出されない事もある始末。それを避けた結果、少人数の隊士に書類関係が一気にいくのだ。

「あれ、何だろう。目から汗が出てくる」
「涙、拭けよ」

十一番隊四席、沢田綱吉。同じく五席綾瀬川弓親。
彼等はその少人数の隊士である。と言うか、書類処理に関しての十一番隊、主戦力である。
もちろん、二人で屈服させた、もとい良心の欠片が残っている隊士に書類仕事を教え込んでいる。それはもう全力で。しかし、机の前に座っていると眠気がマッハで来る奴等である。主戦力にはそうそうなり得ない。

「俺さ、何て言うかさ。理不尽さを感じてる」
「僕もだよ。今日で二徹だしね」

大量の書類が運ばれてくる執務室。其処はもはや、綱吉と弓親の二人の仕事場と化している。その部屋で書類を書く、まとめる、確認する、などをして隊長の判子をもらうのだ。
その部屋の扉を、トントントンとノックする者がいた。

「沢田さん、報告書持って来ました」

十一番隊七席、阿散井恋次である。彼は綱吉に提出する為の書類を携えて来た。

「お、阿散井。早いね」

綱吉は進行形の書類から目を離し、恋次から報告書を受け取ってすぐに目を通し始める。
恋次は数少ない、書類仕事が出来る十一番隊隊士である。いや、正確には出来る様になった、だ。初めは恋次もそれは酷いものだった。しかし、それを綱吉と弓親の二人掛りで鍛えたのだ。それは本人の希望でもあった。
恋次が目指すものは大きい。遠い、とも言える。それを追い掛けるには戦闘能力だけでは足りないのだ。それには事務能力も関わってくる。
恋次には必要だ。それを本人も分かっている。だから鍛えた。

「いやー、もう完璧だね。これならこのまま隊長に出せるよ」
「本当ッスか!」
「お、ついにかい。それなら書類関係はもう大丈夫かな」
「だね。他の種類の書類も問題ないし」

鍛えた甲斐があった。
嬉しそうな顔をしている恋次を他所に、綱吉と弓親は米神を押さえて涙を耐えている。

「「主戦力、ゲット」」

「え」

恋次は彼等によって呟かれた言葉に嫌な予感がした。
綱吉が恋次の手を強く握る。弓親が恋次の肩をポンと叩く。

「阿散井。書類仕事をマスターしたお前に、プレゼントがある」
「本当は一角からも来ているんだけどね」
「え、それって……」
「お前の実力なら大丈夫だろ」
「存分に励んでくれたまえ。美しい僕に泥を塗るなよ」

恋次は頷くしかなかった。





その三日後。
阿散井恋次は十一番隊六席に昇進した。
推薦者は、同隊三席、四席、五席。

執務室に三つ目の机が増えた。





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執務室から聞こえる声も一つ増えた。



20121227



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