今の日常 17.彼女が語る『今』と『前』     7/8
 


昔話をしましょうか。
彼と初めて会った時のお話です。
貴方が知っている様に、仲間内では笑い話の類になっています。多くの人にとっては彼を揶揄(からか)う為の話。でも、何人かにとっては、ちょっとだけ意味が違ってくるお話です。
その意味を知っている、何人かにとっては。





「りぼーん」

とてとて。彼の歩き方に擬音を付けるとするならば、それが相応しいだろう。
それも仕方ない。彼は小さな子供なのだ。

「何だ、ダメツナ」
「どこいくの?」

隣を歩く黒服黒帽子の男は、茶髪の子供――沢田綱吉が付いてこられる速さで歩いている。しかし、手を引く事はしない。彼は自他共に認めるフェミニストだが、男には少々、いやかなり厳しい所がある。それが自分の受け持つ生徒ならば尚更だ。
手は貸さない。しかし、生徒が付いてこられる速さ。それが最大限の譲歩なのである。

「言ってなかったか?俺の……友人の家だ」
「いってないしちんもくでぎもんがありありとわかるよ。しりにしかれてるの?」

殴っといた。虐待じゃない。教育的指導だ。
綱吉は最近めきめきと語彙力を付けている。綱吉の周りにいる大人が変なことを教える前に、自分たちでまともな事を教えてまともに育てようとしている、家庭教師と父親の策だ。
因みに父親のその更に父親である、綱吉の祖父は寧ろ変なことを教える陣営である。『尻に敷く』などと言う言葉、金髪の方の祖父が教えたに決まっている。
この駄目な……個性的な大人に囲まれて、綱吉がまともに育つかは大きくなるまで分からない。

「えんまはいっしょにいかないの?」
「炎真はコザァー……お前のじいさんに連れられて他の所行ってる。シモンのアーデルハイトって餓鬼に会わせるんだと」
「あーでる?」
「お前も近い内ボンゴレの次代と顔合わせするだろ」
「ぼんごれはしってる!じょっとのなかまでしょ!」
「孫にはそう言ってるのか。間違ってないが、彼奴が作った自警団組織で……まぁ、まだわかんねぇか」

そう言い、男――リボーンは溜め息をつく。
組織としてのボンゴレの事は、もう少し成長したら教えていけばいい。
それよりも孫に名前で呼ばせているとは……大方お爺ちゃん呼びされるのは心に刺さるものがあるのだろう。いつまで若いつもりなのだ、あの男は。最も、それを乗り越えたらお爺ちゃんと呼んでくれ!としつこく迫りそうだが。面倒な男なのだ。

「いっそのこと現世にでも行って暫く帰って来なければ良いのにな」
「りぼーん、どうしたの?」
「いや、何でもない」

話をしている間も足は進む。目的地まではもうすぐだ。
このままいけば、意外と早く着きそうだ。リボーンが予想していたよりも、綱吉がよく付いてくるのが理由だろう。
すぐ疲れるだろうと思っていたが、どうやらこの子供は疲れよりも他に気が行っているらしい。

「おい、どうした?」
「ん……なんか、へん?」

綱吉はキョロキョロと周りを見ながら言う。

「どんな風にだ?」
「あのね、なんか、しってる」

子供はつっかえながら、言葉を探すように言う。

「来たことあるのか?」

そんなはずはないと思う。此処に綱吉を連れて来るのは初めてのはずだ。リボーンの予想通り、綱吉も首を横に振る。

「ここはしらない。だけど、しってる、なんだろ……?」
「……いや、知らねぇよ」

綱吉の金髪の方の祖父なら何か分かるかもしれないが、生憎此処にはいない。

「あっ、そうだ!」

綱吉は言葉が見付かったらしい。

「懐かしい感じだ!」
「……あ?」

綱吉の言葉に返す前に、目的地である邸が見えてきた。そして、出迎えの者の姿もある。
邸の門の前にある二つの人影。一つは女性で、一つは綱吉と同年代だと思われる女の子だ。
彼女たち二人に共通しているのは、白くて大きい帽子に――。

「あら、リボーン」
「リボーンおじさま!」

心洗われる様な笑顔だった。

「久しぶりだな、ルーチェ、ユニ」

リボーンは軽く右手を挙げながら二人に声を掛ける。

「中で待ってて良かったんだぞ」
「ユニが外で待ってるって聞かなくて。噂のツナ君に会えるのが楽しみだったみたい。ね、ユニ……ユニ?」

ユニは笑って、ただ一点を見詰めていた。
心洗われる様な笑顔で。
祖母と同じ笑顔で。
変わらぬ笑顔で。

「沢田さん」

口を開いたのは、ユニが先だった。

「ゆ……に……」

一滴の涙を流したのは、綱吉が先だった。

それから何故そうなったのか、リボーンには分からない。
綱吉はユニの手を取って火がついた様に泣き出し、ユニも綱吉の手を握り返して泣きながら笑っていた。
ルーチェは意味が分からないなりに何か納得して二人を見守っていたし、綱吉に何故泣いているのか訊いても泣き続けたままで、リボーンは一人、分からないなりに溜め息をつくしかなかった。





彼が何で泣いたのか、知っているのか、ですか?ふふ、秘密です。でも、これだけは言っておきます。
『私』と『沢田さん』と『もう一人』。私達は友達なんです。此処まで来るのは、ちょっとだけ時間が掛かりましたけど。ちょっとだけ、大変でしたけど。
その心配そうな顔、沢田さんにそっくりです。兄弟って似るんでしょうか。『前』から似ていましたけど。
さ、昔話は御終いです。お茶、もう一杯飲みませんか?





**********

昔話。全ては語らない彼女。



20121118



前へ 次へ

戻る

 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -