昔の日常 16.修行とノリノリの先輩     10/11
 



右と思ったら左。後ろに下がったと思ったら目の前には拳。すっ飛ばされたと思ったら追撃の嵐。
そんな攻撃にも慣れてきた最近の修行。これなら一撃入れられるのもそう遠くないのではと思い始めた。

「脇が甘ーい」

全然そんなことなかったぜ。





阿散井恋次は将来有望だと思われているらしい十一番隊平隊士である。
斬魂刀を振り回すだけになるな、というのが彼に戦いを教えてくれている先輩達の御言葉。その言葉通りに彼が鍛えられているのは剣だけではない。死神の戦いの基礎、斬拳走鬼は一通り教わっている。しかし、それでも『鬼』である鬼道は初回でもう見込みが薄いと見なされた。自分でもそう思う。真央霊術院時代からそうだった。先輩二人も鬼道は得意ではないし、十一番隊は鬼道系を嫌う傾向があるので鬼道の訓練は早々となくなった。
それでも残った斬、拳、走を基礎、応用、実戦での活用に至るまでに鍛えてくれている先輩方には感謝なのだが、生傷は絶えない。
今、先輩の一人である沢田綱吉四席によって白打、つまり素手による模擬戦を行っているが、何回吹き飛ばされたか。五回目から数えるのを止めたので分からない。

「うわ、痣気持ち悪い」
「お前が全力で蹴った結果だろうが」
「全力じゃないし。ちゃんと手加減したし。全力だったら今頃阿散井の肋が折れて四番隊行きになってるし」

どうやら恋次の肋は命拾いしたらしい。それでも服を捲って脇腹を見れば真っ青な肌が。
痛い。めっちゃ痛い。受ける瞬間に力入れて覚悟もしたが、視界に入れて確認すれば痛さも増すというもの。
そんなの構わず濡れた手拭いを遠慮なく押し付けてくる綱吉から逃げたくなる位には痛い。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「うっせぇ恋次!耳元で叫ぶな!」
「一角、しっかり押さえてろよ」

後ろから一角に羽交い締めにされていなかったら恋次の抵抗はもっと酷かっただろう。痛みで上げる悲鳴など気にせずに綱吉はドロリとした気味の悪い青色の軟膏を指に付ける。明らかに市販の軟膏の色ではない。

「沢田四席……それは?」
「知りたい?」

あ、やばい。笑顔が眩しい。沢田四席の笑顔が眩しい。
恋次は痛さが原因ではない汗が背中を流れるのを感じた。人はそれを冷や汗という。

「…………知りたい、です」
「恋次……お前度胸あるな」

何が起こるか分からないままである恐怖よりも、何が起こるか予想は出来る恐怖の方がまだマシである。ただそれだけだ。

「十二番隊所属、骸とクロームの新作」
「一角さん放してぇぇぇぇぇぇ!!」
「一角、放すなよ」

全力で暴れるが、上位席官である二人相手では恋次はまだ手も足も出ない。しかも恋次は負傷、二人は無傷。絶望的である。

「安心しろ、阿散井。死ぬほど凍みるが、よく効くから。害はないから。…………たぶん」
「今最後に小さくたぶんって言いましたよね!?しっかり聞こえましたよ!何をどう安心しろと!?」
「あー…恋次。一応此奴が持ってる薬は四番隊で大丈夫だって言われたもんだから。効くのは確かだし、後遺症もないだろうから。そこら辺は心配いらねぇよ」
「一角さん……」

安心させようと気遣う言葉を掛けてくれる一角。此処での味方は彼だけのようだ。恋次は首を後ろに向けて一角の顔を見る。
一角は口の端をひくつかせて笑うのを堪えていた。

「味方いねぇぇぇぇぇ!」
「あっはっはっはっ!此奴が死ぬほど凍みるって言うことはマジで凍みるからな!覚悟だけしろ!後は諦めろ!」
「だったら覚悟する時間ぐらいくださいよ!」
「だが断る」

綱吉の容赦ない右手が傷に触れる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

恋次の叫びが森中に響き渡ると共に、恋次は決意した。

今度こそ、この人に一撃入れてやる。

それが叶うのは、この訓練から一ヶ月後である。





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彼は少しずつ強くなる。



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