昔の日常 2.地雷を踏んだ     2/11
 

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前話『地雷を踏むな』の後日談です。
出来れば其方を先にお読み下さい。





「あぁ……やっちゃった…」
「…ック……ブフッ……」

新入隊士達への挨拶が結局は試合になってしまってから一時間後。
綱吉と一角は日が高い中の大通りを歩いていた。

「一角…笑いたければ笑っていいよ」
「そんじゃ遠慮なく…ガハハハハぼはっ」

本当に遠慮せず大声で笑いだした一角に綱吉は顔面に裏拳を叩き込む。
一角はその不意討ちに反応出来ずにモロに喰らい、顔を押さえてその場にしゃがみこんでしまった。

「全力で笑うな」
「てめぇ…笑っていいって言っただろうが!」
「お前が笑うのを必死で我慢していたのがあまりにもムカついたから」
「ならそう言えよ!」
「我慢してくれている人に裏拳出来ないだろ?笑っている人にやる方が俺の心が痛まない」
「自分のためじゃねぇか!」
「五月蝿い黙れ。副隊長にこの間の饅頭食べたのは一角ですって言うぞ」
「なっ…なぜそれを!?」

一角は目を見開いて綱吉を凝視する。
綱吉は一角から視線を外して後ろを見る。一角には綱吉がどの方角を見ているのか分かっていた。副隊長のやちるがいる十一番隊隊舎だ。

「副隊長…怒るだろうなぁ。楽しみにしていたから…あの饅頭…」
「あの、綱吉…いや綱吉様。それは内密に…」

一角は最近強くなってきた日差しのためだけではない汗をかいていた。
綱吉はそんな一角を暫く見た後、先ほどの試合前に見せたものを思い出させる笑顔で言った。

「今日のお昼、一角の奢りね」
「…ちっくしょー」

一角は項垂れながら、綱吉は機嫌良く歩き出した。

「てめぇ…まだ根に持ってンだろ」
「あはは、いやぁ、五年振りに言われると怒りも大きくて…あまり手加減出来なかった」

綱吉は笑顔で言っているが、その言葉にはまだ少し棘がある。

五年前、今日と似たような事が起こった。
その年の新入隊士の数名が先ほどの隊士と似たような事を言ったのだ。
入って暫く経っての出来事だったので、仕事に対する不満も溜まり始めていたのだろう。しかも隊士達はその時十人ほどの大人数だった。気も大きくなっていて、見た感じ弱そうな四席相手なら平気だと高をくくり綱吉に喧嘩を売った。
しかし喧嘩を売った時が悪かった。その時の綱吉は十一番隊の溜まりに溜まった書類仕事が終わらず、徹夜三日目の状態だった。やっと一段落着いて仮眠を取ろうとしたら、喧嘩を売ってきた身もわきまえない新入隊士達。そこに更に地雷を踏まれたので、綱吉は怒りのままその隊士達を伸してしまったのだ。
いつもの綱吉だったらある程度は手加減しただろうが、そんなことが頭に過ることはなく、隊士達は四番隊にお世話になった。

「いやぁ、思っているのと実際言われるのは違うね。予想しているよりも腹が立った」
「だからって俺にまで当たるなよ…」

一角はそう言い項垂れる。そう、要は綱吉の八つ当たりなのだ。そしてその八つ当たりのせいで自分は奢る羽目になっている。
綱吉は一角の気落ちに気付くことなく、いや気付いているのかもしれないがそれに構うことなく話を変える。

「隊士共は五分も保たなかったね」
「てめぇが一撃で沈めて行くからだろうが」
「だって防御しないから」
「防御しないンじゃない、出来ないンだよ」

一角はため息を一つついた。新入隊士が綱吉の動きに付いて来られるとは思えない。キレているともなれば尚更だ。

「あっ、でも一撃目だけは防いだ隊士がいたね」
「そういやそうだな。誰だ?」

次々と隊士を一撃で倒していく中、一人だけ綱吉の蹴りを受け止めた者がいた。その隊士も続けて放たれた拳で次の瞬間には地に付していたが、まだ死神になって間もない内に綱吉の攻撃を防いだのだから大した者だ。

「確か赤毛だったな」
「ちょっと待ってね…ええと…」

綱吉は回収しておいた資料をペラペラとめくる。それには個人写真も貼られているので、目立つ赤毛ならすぐに見つけられると考えたからだ。

「…あった。『阿散井恋次』」
「おっ、そうそうこいつだ。何々…五番隊からの転属か」
「五番隊…あっ、そう言えば、エンマが何か言ってたな」
「エンマ?お前の弟だったか」
「双子だからあまり変わらないよ」
「似てねぇ双子だな」
「五月蝿い。エンマは母方の、俺は父方のお爺ちゃん似何だよ」
「へぇへぇ。んで、その弟が何だって?」
「確か…」

綱吉はこの間会った時に彼が言っていた事を思いだし、そのまま言う。

「『意気がいいのが行くから宜しく』…だったかな?」
「…どういう事だ?」
「多分、筋がいい奴が俺の所に来るから、しっかり鍛えてあげてくれ的な?」
「あー、お前の蹴り止めたしな。確かに筋はいいだろう」

一角は納得したように頷く。その意見には綱吉も同意だった。
資料によると鬼道は壊滅的らしいので、刀を中心として戦う事になるだろう。

「…………」

何故か一角がこの子を鍛えている姿が思い浮かんだ。自分の勘はよく当たる。そして一角なら良い師匠になりそうだ。

「さってと…何食べようか?」
「牛丼でも食うか?」
「それじゃ蕎麦にしようか」
「お前今俺に聞いただろ!無視か!無視なのか!?」

一角の言葉に応えることはなく、綱吉は笑いながら目の前の蕎麦屋に入った。



日差しは変わらず強い。今年は暑くなりそうだ。









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『地雷を踏むな』のその後でした。

エンマ君の設定は完全に私の趣味です(笑)



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