昔の日常 1.地雷を踏むな     1/11
 

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日に日に強くなる日差し。
もうそろそろ隊士に注意を促した方がいいかもしれない。
喧嘩に命を賭けているような連中だから、そのまま何も言わないと脱水症状やら夏バテやらにより四番隊にお世話になる奴が急増するのだ。
去年はそれで四番隊の救護班からお叱りを受けてしまった。

「くぉら、綱吉。何ぼさっと歩いていやがる」
「ぼさっとって…酷いなぁ、一角…。そろそろ隊士に暑さ対策するように言おうって考えてたのに」
「あぁ、もうそんな時期か…。去年はお前怒られてたな。上司がもっと見ていてあげて下さい、だったか?」
「そうだよ。何で俺だけ…」
「舐められてンだよ。もっと威厳を出せ、威厳を」

一緒に歩いているスキンヘッドの男――斑目一角はそう言い背中をバシバシ叩いてくる。地味に痛い。

うちの隊は武道派で通っているので、気が荒い奴や短い奴が多い。その上司とも言えばなおさらだ。なかなか面と向かって注意を言える者も少ないのだろう。
貧乏クジを引いているとは自覚しているが、この性質はそう簡単には変わらないのも分かっている。
割りきってしまえばいい。自分は自他共に認めているこの隊の良心なのだ。

「だいたい、今だって断る事が出来なくてここに居んだろうが」
「自分で誘っておいてよく言う。新入隊士の手伝い何て、間違っても隊長にさせられないからね」

彼らは隊所有の道場に向かっている。新入した隊士や転属してきた隊士の元に行って、これからの隊務についての説明をするのだ。
あの隊長及び副隊長にまともな説明何てものが出来るわけがない。入隊早々で隊士たちが隊長の暇潰しの餌食になることが目に浮かぶ。
そして一角一人に任せるのも不安なので、共に行くことにしたのだ。

「それに、ほら、もしかしたら前みたいな人がいるかもしれないし。そう言う人には早めに分かってもらわないと」
「五年前の事か…。あいつらは自業自得だったな」

当時の事を思い出す二人。今ではちょっとした教訓として隊の中で語り継がれている事件とも言える出来事だ。

「まぁ、行けば分かることだ。精々しっかりと威厳があるようにしろよ。無駄だと思うがな」
「一言多いよ、一角」

前方に見えてきた道場からは話し声が聞こえる。すでに隊士達は集合しているようだ。
一角が勢いよく道場の戸を開ける。同時に話し声もピタリと止み、視線が入り口に集まる。

一角は刀を肩に担ぐいつもの歩き方で堂々と道場に入る。自分もそれに続いて道場に入るが、自分を見た新入隊士の何人かからざわめきが生まれる。
その内容を聞き取る事は出来なかったが、嫌な予感がした。五年前の様なことが起きなければいいが…。

「これで全員だな?」

一角がそう言うと、すでに点呼を取ったと思われる隊士がはい、と肯定する。
その隊士は一角に新入隊士それぞれについて書いてあるだろう資料を渡して道場から出ていった。後は任せるということだろう。

一角は渡された資料を全く見ることなく後ろに投げ捨てる。
見ろよ、とも思ったが、一角が全員の情報をすぐに覚えられる訳がない。あれは後で自分が拾って確認しておこう。

視線を投げ捨てられた資料から前に戻す。
今回の新入、及び転属隊士の数は二十二名。その全員の目が全て自分達に向けられていた。

「十一番隊三席斑目一角だ」
「十一番隊四席沢田綱吉です」

それぞれ名乗りをあげる。
すでに予想していたことだが、ざわめきが大きくなった。
あぁ、ヤバイかな、と思ったが、まだそれについては何も言わない。

「君たちは今から十一番隊です。十一番隊は戦闘集団、武道派などと言われていますが、それは間違いではありません」
「うちの隊は実力主義だ。実力があればどんな奴でも上に行ける。また実力がない奴は死んでいく。それを肝に念じとけ」

一角が言い終わると同時に説明を始めようとしたら、隊士の中の一人が声を上げた。

「ちょっといいッスか」
「どうぞ」
「実力主義って…あんたが四席何でしょ?」

来た。綱吉は心の中で思った。
五年前と同じか…。内心うんざりしながら隊士の次の言葉を待つ。

「あんたみたいなひょろい男が四席で実力主義?説得力ってもんがないんッスけど?」

一応敬語らしきものは使っているが、込められるべき誠意が感じられない。綱吉はため息をつき、感情を抑えた声で言う。

「まぁ、俺は確かに平均よりも小柄かもしれないけど、お飾りじゃなくてちゃんと認められている四席だから。それに見合う実力はあると見なされているって事だよ」
「はあ?あんたがミトメラレテイル?まじかよ?あんたみたいな奴が?」

その隊士はまるで馬鹿にするかの様に笑う。実際馬鹿にしているのだろう。
隣の一人が小さく止めるように言っているようだが、あまり効果は望めないだろう。穏便に収めるためにもそろそろ何か言おうかとしたその時、隊士は黙ることなく言った。

「あんたみたいな女顔が四席かよ?信じられねぇなぁ」

言った次の瞬間、その隊士は部屋の温度が数度下がったように感じた。
前に立っている一角は頭を押さえて「あーあ、言っちゃたな…」と呆れたように呟いている。
そして綱吉は無言のまま懐に手を入れて毛糸の手袋を取り出した。

「ふふふ、ふふふふふ…」

綱吉は若干不気味な笑い声を上げながらゆっくりと手袋を装着し始める。
彼を中心として部屋の空気が凍り始めているのに気が付いた隊士は、突然雰囲気が変わった綱吉に怯えるように一歩、また一歩と下がる。

「ひょろいやら優男と言われるのは慣れている。十一番隊は体格良い奴ばかりだから。だが『女顔』とはどういう事だ」

背を向けたらその瞬間に殺される気がして、隊士は綱吉から目を離すことが出来ない。

「仮にも上司だぞ?仮じゃなくとも上司だぞ?そんな俺に向かって…」

綱吉が完全に切れていると判断した一角は、諦めたようにため息をついて後ろに下がってから言う。

「あー…、今の隊士も含め、お前らは大なり小なりこいつが四席に疑問を持ってンだろう。だから今からこいつ対お前らで試合だ。言葉よりも実戦だ。全力でやれよ」

一角は壁際まで下がってその場に座った。

「せめて五分は保ってくれよ」

一角が試合始めと言うと、隊士達は反射的に腰に下げている刀を抜いた。
そして綱吉の付けていた手袋がグローブへと変形し、手と額に鮮やかなオレンジの炎が灯る。
どういう原理でその現象が起こるのか考える余裕は隊士達にはなかった。

「お前ら……」

そんなことを考える暇があったら、目の前で満面の笑みを浮かべている四席から逃げる手段を考えたいからだ。



「歯ぁ食いしばれ」



隊士達は怒る強敵の前に立つ恐怖を体験した。









**********
はい、BLEACHとの混合でした。

実はこん中に五番隊から転属してきた打倒六番隊隊長の赤毛の彼がいたりいなかったり。いや、いるんですけどね(笑)

いろんな妄想が広がりましてね。
我慢できずに書いちゃいました。



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