昔の日常 15.友と贈り物 9/11
一月三十一日。
今年、その日は雪がしんしんと降っていた。
手入れが行き届いた広き庭園を雪は白く染め、それに反し空は灰色の雲に覆われる。
朽木白哉はそれに感じ入る事はなく、自室で淡々と己の作業を続けていた。
数日前から送られてくる祝いの文や品を確認し、礼を認めた文を返す。それの繰り返しだ。
毎年、この時期は忙しい。
白哉は隊長となってからの日が浅く、仕事に慣れたとは言えない。しかし、隊長としての仕事を滞らす訳にはいかない。四大貴族としての役目を放り出す訳にもいかない。
文や品の多くは社交辞令で送られてくる物だ。
四大貴族の当主の機嫌を損ねる訳にはいかないと、義務感で送られてくる物。
それが悪いモノだとは思わない。これらの送り主も、自分と同じ様に貴族としての役目を果たそうとしているだけなのだから。
――稀に反応に悩む物もあるが。
白哉は送られてきている一通の手紙を手に取った。
一見、当たり障りない祝いの言葉が綴られている。貴族として気品を感じる文字に、丁寧な文章。
それだけならば良い。それだけならば何も困らない。それだけならばただの祝いの手紙なのだ。
だが、最後に添えられた一文。
『四大貴族としての隙を見せたら咬み殺す』
手紙を入れていた包み紙をもう一度確認する。
送り主は雲雀家当主。確認するまでもなかった。
筆を取り、祝いの言葉に対する礼の文を認(したた)める。
当たり障りない礼の言葉を綴る。貴族として気品を感じる文字に、丁寧な文章。
そして最後に一言添える。
『其の様な真似はせぬ』
何時から始まったのだったか。もう毎年繰り返されている。どちらが先に始めたのだったか。それに違和感を感じていない自分がいる。
思い返せば、この男とも長い付き合いだ。四大貴族と上流貴族として先祖代々の付き合いはあった。しかし、自分達の付き合いもその延長線上かと言われれば、違うものがある。
出会いは朽木家だった。
自分は相手が雲雀家嫡男だとは知らず。
相手は自分が朽木家嫡男だとは知っていても態度を崩さず。
幼き日に交わした言葉を、今も覚えている。
過去に想いを馳せていた所で気付いた。包み紙の中に、まだ入っている物がある。
二つに折り畳まれた紙。素朴な紙で、模様も何もない。
開いた紙には、四つ葉の白爪草が挟まれていた。
『せーしきなおくりものは、ぷりーもが、もってきます』
紙には一言、「彼からだよ」とだけ書かれている。
『びゃくやぼーは、ふーりゅーがすきだぞって、よるいちさんがいってて』
過去に、一度だけ――――。
『はなはよくわからないけど、おれはこれをもらったらうれしいから』
社交辞令ではなく、純粋な好意で、粗末な小さな葉を贈られた事がある。
『びゃくやさん、たんじょうびおめでとうございます』
彼はもう上流貴族ではないから、正面から葉を渡すことは出来ないと、こうして友に頼んでこっそりと贈ってきたのだろう。
ルキアが会ったと言っていた。
優しかったと言っていた。
懐かしきその葉は、彼が変わっていない証明の様に白哉の手に届いた。
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一月三十一日、白哉兄様、誕生日おめでとうございます。
20120131
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