今の日常 14.殴り込みと饅頭一つ     6/8
 

ズドォォォォォン!!



破壊音が青空の下に響く。
草壁は主の顔を盗み見た。のんびりと茶を啜っていた主の額には、いつもより三割り増しの皺が浮かんでいる。
嗚呼、機嫌が一気に悪くなっている。

嘆息したいのを押さえながら、草壁は襲撃者の叫びを聞いた。



「雲雀ぃぃぃぃぃ!極限に決闘だぁぁぁぁぁ!」



草壁は泣きたくなった。





「雲雀!此処にいたか!」

襲撃者は顔馴染みの青年だ。歳は雲雀と同じほど。もう知り合ってからの年月も長い物となる。
護廷十三隊十三番隊所属、笹川了平。極限が口癖の、問題児である。

「おお!草壁もいたのか!久しぶりだな!」
「お久しぶりです。前回から、二週間ぶりでしょうか」

草壁は苦笑いで返した。

了平を連れてきた侍女は、了平の後ろで申し訳なさそうにしている。此処まで連れてきたのを正しかったのかと不安なのだろう。確か彼女はこの邸に来て日が浅い。
了平が来たら、大抵の場合は通す様にしている。来客中などだったら話は別だが、ある意味了平は客人だ。来る度に門を破壊し、決闘を申し込んでいると言う点を除けば。
無理に帰そうと思えばこちら側にどのような被害が出るのか分かった物ではない。素直に案内するというのがこの邸の暗黙の了解となっている。

「雲雀、けっと「断る」何ぃ!何故だ!」

雲雀は了平が言い終わる前にそれを遮った。腰を上げることはなく、茶を啜っている。

「何度も言っただろう。君を見ていると闘争意欲が萎える」
「何だと!」

了平は憤慨した様で、顔の前で拳を奮わせている。草壁は雲雀の側近としてどうにか了平を宥めようとする。

「笹川さん、雲雀はこの後仕事の予定です。今日はどうか……」
「ならば、決闘はその仕事の時間までだな。1ラウンドなら問題あるまい」
「そうではなく!」

この人には日本語が通じないのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。自分を信じろ、草壁哲也。信じる心と忠誠心を忘れるな。

「笹川さん、兎も角今日は……」
「む!そうだ草壁!」

笹川は思い出したかの様に懐を探る。草壁は待った。何だというのだろうか。正直良い予感はしない。

「これだ!」

笹川は掌に乗っけたそれを見せた。
丸く、若干潰れているそれ。それは――。

「饅頭……ですか?」
「饅頭だ」

第三者から見れば、草壁の目が点になっていることだろう。
その手に持っているのは間違いなく饅頭だった。一つだけだが。これがなんだと言うのだろうか。

「ええっと…何故、饅頭なんでしょうか?」
「手土産だ」
「……え?」

笹川はうんうんと頷く。

「この間アーデルハイトに言われてな。人の家に、それも一応貴族の家に行くのに手ぶらなのは失礼ではないかと言われたのだ」
「一応もなにも、雲雀家は大貴族ですが」
「そう言えばそうだったな」

忘れないでくれ。頼むから忘れないでくれ。

「兎も角、手ぶらではいけないと言われたので、手土産を持ってきたのだ」
「……それで、何故一個の饅頭を?」
「給料日前で金欠なのだ!」

なら無理をして来ないで下さい。そう言えたらどんなに楽だろうか。彼は仮にも、仮にも客人なのだ。

「受け取るのだ!」
「……ありがとうございます」

受け取った饅頭は懐に温められていたので奇妙な温度となっていた。

「さて、それでは雲雀!決闘だぁぁぁ!」
「ですから笹川さん!雲雀は仕事の予定が…」

了平が部屋にどかどかと入る。草壁は止めようとするが、それで止まるのなら苦労はしない。

「待って下さい、笹川さ…」
「笹川了平」

湯飲みを置いて雲雀は立ち上がった。まさか相手をするというのだろうか?

「おお雲雀!やる気に……」

次の瞬間。雲雀は了平の背後に立っていた。瞬歩だ。全く初動作が分からなかった。やはりこの人の戦闘センスは凄まじい。
そんなことを思っていたのは一瞬だ。
笹川が吹き飛んだ。
戸は開いていたので壊れることはなかったが、庭に吹き飛ばされた彼は呻き声を上げることはなく、草垣に顔を突っ込んで倒れている。
雲雀はいつの間にか手に持っていたトンファーを仕舞い、身を翻して了平には目もくれない。

「礼儀を習って出直すんだね」

もう聞こえていませんよ、恭さん。
草壁はその言葉を飲み込んだ。







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殴り込み一号の襲撃は月に二、三回。



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