昔の日常 10.仕事終わりと花火     7/11
 



「花火しようよ!」

我らが副隊長、草鹿やちるの言葉で、そのイベントの開催が決まった。





空では満月が輝く。俺らは蒸し暑い夏空の下に集まった。

「花火なんて何年ぶりだろう」
「てか、こんな暑い中にやるなんざ…」
「花火は夏の暑い中やるのがいいんだよ。冬に花火もやってみたいけどね。アイス頂戴」

綱吉は一角の荷物からアイスを一本抜き取る。それは二つに割るタイプの物だった。

「あっ、ツッ君!私も食べる!」
「それじゃ、半分こしましょうか。草鹿副隊長は大きい方食べるでしょ?はいどうぞ」
「わーい!ありがとうツッ君!」
「俺に許可取れよ!俺のアイスだぞ!」

勿論、その言葉は二人とも無視だ。うん、アイス旨い。

「それにしても…」

綱吉は目線を少し横にずらした。

「弓親が来るとはね…こんな暑い中やるのは嫌じゃないの?」
「花火は美しい。芸術だよ。それに僕が参加しない道理はないだろ?」

それなりに付き合いは長い方だが、弓親の美学はよく分からない。飲みに誘っても、断る理由は「美しくない」だったり、かといって誘わなかったらすねるという。はっきり言ってめんどくさい。
良い奴なんだけど…良い奴なんだけど…!

「あのね、いっぱい買ったの!ネズミでしょ、持つのでしょ、ネズミでしょ、線香花火でしょ、打ち上げでしょ、ネズミでしょ…」
「ネズミ多いな!」
「嫌な予感しかしないね、特に一角」
「言うな!フラグを立てるな!お願いだから!」

一角の言葉は誰も聞いていない。





「やめろぉぉぉぉぉ!」

よい子の皆は、火が点いている花火を人に向けるのはやめましょう。大変危険です。
えっ?何でそんなことを言うかって?簡単さ。
目の前で起こっている。

「つるりん逃げないでよぉ!」
「こっち来るなぁぁぁぁぁ!」
「平和だなぁ」
「君、年寄り臭いよ」
「言わないで弓親。怒濤の仕事詰めをクリアした後だから、余計に今が楽しいよ」

綱吉は遠い目をして目の前にある花火を眺める。

「でも、本当綺麗だ」
「美しい。これこそ僕に相応しい」
「こらてめえ等!助けろよ!」
「弓親綺麗なのが好きだねぇ」
「当たり前だよ。綺麗な物は世界を救うよ」
「あの、副隊長、やめ、やめ、やめてぇぇぇぇぇ!!」
「…本当、平和だねぇ」

綱吉は、手に持っている麦茶を飲んだ。

「あの…」

叫びを上げる一角を微笑ましく眺める綱吉に、遠慮しながらも声を掛ける者が一名。

「どうした、阿散井」
「今日…訓練だって聞いてたんすけど…」
「訓練さ。副隊長におもちゃにされないようにどのように振る舞うか。この隊にいるからには大切な、とても大切な訓練だよ」
「いや、一角さんがほとんど確実におもちゃにされてますよ!?」

阿散井は真面目だなぁ。昼間はきちんと訓練していたから、休んだ訳ではないのに。その真面目さを、他の人にも見習って欲しい。隊長とか、副隊長とか、隊長とかに。無理だと分かっているけど。

「仕方ないなぁ」
「訓練やってくれるんですか!?」
「うん…副隊長ぉ。阿散井も混ざって遊びたいらしいですよぉ!」
「え…ええ!?何で!?」
「わーい!本当?」

これで追いかけられるのが二人になった。副隊長は楽しそうだ。良かった、良かった。

「あれ、どこが訓練?」
「副隊長から逃げ切れれば、相当なモンだよ」
「確かに…それもそうだね」

弓親に納得させられる訓練内容。今度から採用されるかもしれないな。

「それにしても…」

目の前では一角と阿散井を追いかける副隊長。
後ろの縁側では酒を飲みながら更木隊長が花火を眺め。
俺は弓親と一緒に線香花火。

「平和だね」

綱吉は嬉しそうに花火を眺めた。







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オチがないのはいつものこと



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