昔の日常 9.貴族と貧乏性と一般人     6/11
 


「沢田四席!助けて下さい!」

懇願の叫びと共に十一番隊の隊舎に飛び込んで来たのは、まだ若い四番隊の隊士。よほど恐ろしい物を見たのだろう。その顔は今にも泣き出しそうだ。
しかし、助けを求められた当本人は。

「……はぁ」

溜め息をついた。





「また喧嘩ですか、雲雀さん。いい加減飽きたらどうかと思うぞ、骸」

四番隊の隊舎の一角。そこが崩壊している。患者や隊士達はすでに避難しているようだ。
そして、中心にいるのは二人の男。

「やあ、久しぶりだね。沢田綱吉。息災かい?ところで何しに来た…って訊くまでもないか」
「また君ですか。まあ、卯ノ花隊長は確か会議中でしたからね。他の者に頼んだ、ということでしょうか。邪魔しないで下さい」

他所の隊舎を壊しておいてこの言い様。人としてどうよ、と言いたい。

「はぁ…どうして俺が…」

この惨状。作り出したのは勿論この二人。
何を考えているのか。少なくとも、周りの迷惑は考えていないだろう。考えていたら、こんなことにはなっていない。

「……はぁ」

三度目の溜め息。逃げるがいいさ、幸せ。俺は追わない。そんな気力がないからな。
昨日は徹夜だった。仕事が立て込んでいるのだ。弓親はまだ残って仕事をしている。

「雲雀さん。骸。俺は仕事に戻りたいので、喧嘩を止めませんか?」

答えは分かっている。

「「断る」」

ですよね。

「あぁ、もう」

四番隊隊舎は酷い有り様になっている。端の方だというのがせめてもの救いだ。
…いや、崩壊させる時点で駄目だろ。

「これ、修復にいくら掛かるんだろ」

綱吉はふとそんなことを考えた。
何度も壊しているんだから、その金額も膨れているはずだ。貴族の雲雀なら兎も角、二人暮らしの骸にはきつい出費だろう。
興味本位で訊いてみた。

「これ、修理費いくらくらいなんですか?」

返ってきた答えは予想外。

「「さぁ?」」

何故?どうして壊している本人達が知らない?
綱吉の頭に恐ろしい可能性が浮かんだ。

「まさか…踏み倒しているんですか!?」
「別に請求されたことはないよ」
「幻術を使えば逃げることなど容易いことです」

嗚呼。何ということだ。
謎が多い、というか謎しかない雲雀家に請求する度胸が、インドア派の会計にあるわけがない。
また、骸の幻術にも敵う奴はそうはいない。本気で逃げられたら手が打てない。
結果。修理費を踏み倒すことに成功してしまっている両名。実力ある者は質が悪い。

「アンタ等は…」

綱吉はゆっくりと手袋を填める。勿論、ただの手袋ではない。綱吉愛用グローブに変化する。

「ワオ」
「おや」

その様子に気付いた雲雀と骸。久しぶりに綱吉とも戦えると、顔に好戦的な笑みを浮かべるが、すぐにそれは消える。
綱吉からいつもとは違うオーラが出ている。

「ねぇ」
「何ですか」
「どうして彼怒っているの?」
「知りませんよ」

綱吉は炎の逆噴射を使い、猛スピードで突っ込んだ。

「アンタ等、会計の苦労も考えろ!」





その日。
会計の長年の悩みが、一つ消えた。
それから綱吉は、その会計に会う度にお礼を言われるようになりましたとさ。





因みに。
結局は一緒に暴れた綱吉を含め、雲雀と骸の喧嘩を止めたのは、戻ってきた卯ノ花隊長。
その後、何があったのか、目撃者である隊士は何も語らない。
ただ、それ以後、四番隊の隊舎でだけは、彼等が暴れなくなったという事実のみが残っている。







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卯ノ花烈最強伝説



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