昔の日常 8.初対面の妹と知り合いの兄 5/11
朽木ルキアは上機嫌だった。
本日の合同稽古は、稽古とはいえ楽しかった。
声を掛けて下さった沢田綱吉殿は実力あるお方で、それを傲る事はなく、些細な気遣いが出来る方だった。
広い朽木家を歩く。いつもは独りだと突き付けられているように感じるが、良い方に出逢えた偶然の幸福から今はまだ抜けきらないためか、窮屈さは感じなかった。そう言えば、あの苦手な朽木家の門をくぐる時も、大して気を落とさなかった。
沢田殿は良い方だ。
気付いたら、ルキアは口元に笑みを浮かべていた。
いけない。これから兄に今日の報告に行くのに、だらしない顔では申し訳ない。ルキアは顔を引き締めた。
「兄様、入ります」
ルキアは白哉の部屋の前に来た。中から許しの声がし、緊張しながら襖を開ける。
白哉は、ルキアに背を向ける様に座していた。
いつも、白哉はルキアに背を向けている。それが拒絶されている気がして、ルキアは悲しかった。
「合同稽古はどうだった」
白哉は感情が感じられない声で言う。本当は興味などないのではないかと思ってしまう。
「はい」
ルキアは本日の合同稽古の内容を報告する。
今日の事を思い出すと言うことは、沢田殿の事を思い出すと言うことだ。それは少々楽しかった。
それが声にも現れていたのだろう。白哉が口を挟んだ。
「…嬉しそうだな」
「えっ?」
白哉は顔には決して出さないが、驚いていた。
ルキアは朽木家では落ち着かないのか、あまり嬉しそうにはしない。報告も緊張している。しかし、今は楽しそうだった。それが気になった。
「その、あの…」
ルキアは恥ずかしそうに言う。
「合同稽古で組んで下さった方が、良い方で…サポートして下さり…本日は良い経験が出来ましたので」
白哉は自然な流れで訊いた。
「誰だ?」
「十一番隊の沢田綱吉殿です」
白哉は、僅かに目を見開いた。ルキアはそれに気付かなかったが、黙り混んでしまった白哉に不安になる。
何か不味いことを言ってしまったのだろうか。
「あの…兄様?沢田殿の事を知っているのですか?」
戦闘集団と噂される十一番隊の四席だ(失礼かもしれないが、知ったときは驚いた。全くそうは見えなかったから)。隊長格である白哉が知っていても、不思議はない。
そう思ったのだが…。
「いや…」
白哉はそれだけ言い、再び黙り混んでしまった。
すでに表情はいつもの無表情に戻っている。驚いていた顔は完全に隠れてしまった。
「今日はもう下がれ」
その言葉で、ルキアは礼をして部屋から出ていく。
胸にあるのは、白哉の最後のいつもと違う感じへの違和感と、また綱吉に会えたら良いという想いだった。
白哉はルキアが退出した後も座したまま思考していた。
沢田綱吉。
懐かしい名だった。その名を聞いたのは、何年ぶりだろうか。
祖父二人が行方を眩ませて暫くしてから、あの家は没落した。それから、話してはいない。
綱吉達が家を去るときに、一度話をしたのが最後だ。
懐かしい…とは、思う。しかし、それ以上に、疑問だった。
何故、朽木家の者に関わるのだろうか。今さらだと思った。
しかし、不安は感じない。純粋な疑問しか湧かない。
それは、ルキアが楽しそうだったからだろうか。
それは、過去の彼がどんな人物なのか知っているからだろうか。
答えは出ない。
白哉は、過去に想いを馳せる様に目を閉じた。
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副題
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