昔の日常 7.稽古代理と知り合いの妹     4/11
 

「うわ、凄い人数…」

本日は合同稽古の日。
各隊が代表を何人かずつ出しあい、交流と、各隊の能力がどの程度かを見るのが目的だ。

「一角の奴…覚えてろよ」

本日の合同稽古。本当は我が隊の代表の内、一人は一角の予定だったのだ。しかし、昨日食べた物に当たったらしく、朝に欠席の連絡が来た。
体調管理を疎かにしている奴でも、実力ある三席だ。その代わりは誰にでも勤まる訳ではない。
ある程度以上の実力がある席官で、本日仕事に余裕がある者。そして何より、いきなりの、はっきり言って面倒なこの行事を引き受けてくれそうな者。
綱吉に白羽の矢が立った。
断らなかったのかって?断らなかったさ。だって、断った場合、この代理は徹夜続きの弓親になる手筈になっていたから。流石に、目の下にはっきりと隈を作っているあの弓親にやらせるほど、綱吉は鬼にはなれない。書類を手伝ってくれている彼との友情は大切にしたいし。

そんな訳で、綱吉は合同稽古の集合場所に来ていた。各隊五人から十人を出すのが基本だ。この合同稽古、能力を見るのよりも、代表として選ばれた者は交流に重点を置いている。ここで他の隊に顔を広げるのだ。

「顔を広げるよりもゆっくりしたいよ…」
「それを言ったら駄目だよ、ツナ」

後ろから声を掛けられた。勿論、声を掛けられる前からその気配には気付いてはいた。何て言ったって、大切な兄弟の気配だ。

「いいんだよ、炎真。どうせ代理だし」
「十一番隊の新人は恋次が来るかと思っていたんだけど…違うみたいだね」
「最初は恋次も考えたけど、彼奴は二日前の修行で今は死体状態だ」
「容赦ないね」

鮮やかな赤毛を隠すことがない炎真。同じ赤毛でも、恋次の赤毛とはどこか違うのだ。どこが違うのか、訊かれたら困るが。その髪の鮮やかさだろうか。

「ツナ、何考えてる?」
「炎真は女の子にモテそうだ」
「…ツナって馬鹿?」
「失礼な。一角に書類仕事を押し付ける方法を、十通り考えているくらいには頭は動く」
「なら大丈夫だね」

そう言って炎真と笑う。二人での意味がない会話が大好きだった。

「今回は違う隊の人と二人一組で組むんだって」
「なら、一緒にやろう」
「うん。そのつもりで声を掛けた」

周りをよく見れば、すでに何人かは組を作り終えている。今回は早く決まりそうだと思った。

しかし、一人、女の子が沈んだ顔で佇んでいる。

「あれ、あの子…」

綱吉はその子に目を止めた。
一瞬、合同稽古の相方が見つからないのかとも思った。しかし、周りの人が彼女を避けているように感じられた。
何故か。理由は、隣の噂話ですぐに分かった。

「あの子、朽木家に養子入った子でしょ」
「組んで怪我でもされたら大変だ」
「それに、成り上がりの貴族となんて組みたくないわ」
「流魂街出身で貴族だなんて、感じが悪いに決まっているものね」

嗚呼、そうか。
彼女が、白哉さんの所に養子に入った子か。
彼女が、恋次の言っていた子か。
彼女が……。

綱吉は彼女をじっと見た。周りの態度に、彼女は気付いているのだろう。だから、あの様に肩が狭そうにしている。あんなに小さい肩を、狭そうにしている。

「…炎真」
「行ってきな」

綱吉が何か言う前に、炎真は全て分かっているように言った。

「僕は適当に他の人見つけるから」
「ごめん」
「今度何か奢ってね」
「勿論」

綱吉は炎真にお礼を言ってからその場を離れた。
そして彼女に近付き、話し掛ける。

「こんにちは」

彼女はゆっくりと振り返った。

「俺、十一番隊の沢田綱吉って言うんだ」
「え、その」

彼女は焦ったように言葉を詰まらせる。いきなり話し掛けられて、戸惑っているのだろう。

「もし良かったら、俺と組んでくれる?」

まるでナンパみたいだな。綱吉は内心で笑った。こんな場面をジュリーにでも見られたら「アンタもついに…!」とか言われそうだ。絶対に見せてたまるか。

「それとも、もう相手決まってるかな?」
「いえ!決まってなど…私で宜しいのですか?」

彼女は恐る恐る訊いてくる。綱吉は、安心させるように笑った。すると、彼女は嬉しそうな笑顔になる。その笑顔は、これから稽古なのに不謹慎だとでも思ったのか、すぐに真面目な顔になり消えてしまったが、もう肩を狭くしている様子はない。

「私の名は朽木ルキアと申します」

ルキアは、右手を差し出した。

「宜しくお願いいたします」
「此方こそ、宜しく」

綱吉は、彼女の手を握った。







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少女との出会い



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