今の日常 5.元家庭教師と元生徒     3/8
 

綱吉は日番谷に呼び出され、隊長室まで赴いた。
自分は三席であるし、自分の隊長に呼ばれることは珍しいことではない。
しかし、何故か綱吉は嫌な予感がした。何故と言うことはない。いつも通り第六感だ。自分の祖父は超直感だとか言っていたが、そんなの今はどうでもいい。
だから行きたくはなかったが、これも仕事。サボれば隊長に悪い。
綱吉は扉をノックした。

「日番谷隊長、呼びましたか」

扉を開ける。すると、扉の前に待っていたかのように立っている男がいた。

「よう。久しぶりだな、ダメツナ」

綱吉より背が高い男は、勿論日番谷ではない。
その姿を確認した途端、綱吉は勢いよく扉を閉めた。

「させるか」

しかし、相手も甘くない。閉められる扉に右足を挟んでそれを防ぎ、空かさず自分の手で扉を無理矢理開く。
ドアノブを掴んでいた綱吉はその勢いで体勢を崩す。それを男が見逃すはずはなく、右手でがしりと綱吉の頭を掴む。

「俺の顔見て扉を閉めるとは、良い度胸じゃねぇか」
「痛い痛い!頭蓋骨がミシミシいってる!砕ける!放せってリボーン!」

黒い上質のスーツに身を包み、同じく黒帽子を被った男。彼は綱吉がそう言っても放す気がないようだ。

「久しぶりに元家庭教師様に会ったってのに、その態度は頂けないな」
「ごめんなさいすみません!お久しぶりですリボーン様!」

綱吉がそう言って、ようやく男は満足そうに手を放す。
かなり痛かったのだろう、綱吉は頭を押さえてしゃがみ込んだ。
すると、部屋の中から男とは違う、楽しそうにクスクス笑う女性の声がした。

「リボーン、ツナ君が可哀想よ」
「こいつにはこれくらいが丁度良い」

綱吉はその聞き覚えがある声に顔を上げる。そこには懐かしい人がいた。

「ルーチェさん!お久しぶりです、元気でしたか!」

彼女は部屋の中のソファに座り、乱菊や日番谷と一緒にお茶を飲んでいる。テーブルに一つ多くエスプレッソが置いてあるのは、男の分だろう。男は綱吉の来訪に気付き、気配を消して扉の前で待ち伏せしていたのだ。

綱吉は握りつぶされそうになった痛みなど忘れて、笑顔で彼女に駆け寄ろうとする。しかし、それを快く思わない者がいた。

「おいツナ。何でルーチェには笑顔何だよ」
「え?そりゃ、リボーンへの対応とルーチェさんへの対応が同じ訳ないじゃん」

綱吉はあっけらかんと言うが、すぐに失言に気付く。しかし、遅い。


ルーチェと乱菊はリボーンが綱吉に絞め技を掛けているのを楽しそうに見ていて、日番谷はため息をついた。





「この男はリボーンで、俺の元家庭教師です。こちらの女性がルーチェさんで、俺の祖父の代からの付き合いです」

着いた時よりもだいぶぼろぼろになった綱吉が、ソファに座り二人を紹介する。
リボーンは偉そうにエスプレッソを飲んだままだが、ルーチェは行儀良く頭を下げた。人格の差がよく分かる。

「誰と誰の人格の差だ?」
「人の心を勝手に読むな」

綱吉は頭を叩かれるだけですんだが、それでもかなり痛い。多少は手加減して欲しいものだ。

「…で、何でその元家庭教師何かの二人がここに来たンだ?」
「おいおい天才少年。結論を焦ってばかりじゃ背が伸びねぇぞ」
「どういう意味だこの野郎!」

日番谷は立ち上がりリボーンに掴みかかろうとするが、綱吉が土下座してそれを止めた。

「急に来てしまってごめんなさいね。近くを通りかかったから、様子を見に来たのよ」
「いやいや、いいんですよぉ。差し入れまで持ってきてもらっちゃって、すみませんねぇ」

乱菊はそう言って、貰った饅頭を口に含む。あのリボーンが持ってきた饅頭だ。老舗の名店で買った、恐ろしく高いものに違いない。乱菊は美味しそうに食べている。

「だからって…だからって…連絡もなしに来ることないじゃないか…」
「馬鹿。いきなりじゃなきゃてめぇの仕事風景が見れねぇだろうが」

なんとこの俺様家庭教師は、離れたところから綱吉の仕事を見ていたらしい。
これでも綱吉は人の気配には敏感だ。見られていたら高確率で気付く。それなのに気取られないとは…。流石というか性格が悪いと言うか…。

「誰の性格が悪いって?」
「だから人の心を勝手に読むな!」


その後の話は、正直逃げ出したかった。
綱吉のことを小さい頃から知っているリボーンは、恥ずかしい過去をどんどんばらしていく。
ルーチェは笑っていて止めてくれないし、綱吉の言うことを彼が利くわけがない。最終手段としてその場からの逃走を図っても、「敵前逃亡は許さねぇ」と言って、それも不可能。
綱吉は自分の秘密にしたい失態を上司にばらされる羽目になった。





「んじゃ、邪魔したな」
「お茶ご馳走様でした」

ようやく二人が帰る頃には日が沈み掛けていた。綱吉はソファに意気消沈に沈んでいる。彼の復活は遠そうだ。

「たまにはこっちにも顔を出せよ」
「私の所にも来てね。ユニが会いたがってるから」

そう言ってようやく帰った二人。ようやく解放されたと思ったが、後ろから乱菊が寄りかかってきた。

「綱吉ィ?『ユニ』ちゃんって誰かしらぁ?」

にやにやと楽しそうに笑う彼女。
解放されるのはまだまだ先のようだ。







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先生は今でも気にかけていてくれる



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