今の日常 4.技術屋と共犯者     2/8
 

綱吉は十二番隊技術開発局内に入った。
中にいる研究者達は机かパソコンに向かっている人が大多数で、数人は忙しなく歩いている。その中には見知った顔がいた。

「クローム」
「あっ、ボス」

右目に眼帯をした少女。彼女はいくつかのファイルを持っている。どうやら仕事中の様だ。

「久しぶり。骸は一緒じゃないの?」
「骸様は今四番隊に行ってる」
「四番隊?まさか怪我でもしたの?」
「違う。ちょっと気絶した人を運びに行っただけ」
「クローム…もしかしてその人に食堂で幻覚見せたりしたの?」
「秘密よ、ボス。悪いのは食べ残しをする人」

クロームは悪びれることなく言う。綱吉は溜め息をついた。
彼女達兄妹は節約家だ。そして無駄遣いや食べ残しを許さない。彼女達の前でそのような事をした場合、この世の物とは思えない幻覚を見せられる。
まだ彼女達の目の届く所で食べ残しをする人がいるとは…運ばれた人は恐らく新人だろう。

「…ほどほどにね」
「努力するわ」

クロームと別れ、綱吉は開発局の中を進んで行き、一つの部屋に入る。
中には金髪の作業着を着た男がいた。

「あれ?スパナだけ?」
「ん。ジャンニーニはラボで部品作りしてる。正一は隊長の呼び出しで出てる」
「え?何で正一君が?」
「たぶんこの間のラボ爆発の被害について。お腹痛くして帰ってくると思う」

スパナはポケットから二つ飴を取り出し、一つを綱吉に投げた。綱吉は片手でそれを受け取り、袋を破く。

「正一君も大変だなぁ。俺この間の誕生日に胃薬あげたよ。微妙な顔されたけど」
「ん。うちも胃薬あげた」
「え?」
「そう言えばジャンニーニも胃薬あげてた」
「そりゃ微妙な顔もするわ…」

この様子では他の人からも胃薬をもらっている可能性がある。
彼への贈り物はもっとあるだろうに…。何故皆胃薬をあげるのだ。自分もあげた綱吉が言うセリフじゃないが。

「手袋は二人から預かっている。これを取りに来たんだろ?」
「そうそう、良かった。出直さないといけないかと思った」
「あと、新作のヘッドフォン。試したら感想を聞かせてくれ」
「了解」

綱吉は差し出された二つを受け取る。

「コンタクトはもう少し掛かる。あとは炎圧の再設定だけだから、待ってるか?」
「うん」

綱吉は余っている椅子に座って、貰った飴を舐めた。スパナお手製の飴はイチゴ味だった。

「最近炎圧の上昇が凄い。体への負担は大丈夫か?」
「平気平気。それ、前に正一君にも言われたよ?皆心配し過ぎだって」
「ボンゴレはたまに平気な顔して無茶をする」
「……たまにだよ」
「よく平気な顔して無茶をする」
「言い直さないでよ」

綱吉は笑って小さくなった口の中の飴を噛んだ。

「四番隊に行くついでに検査する時もあるから、心配ないよ」
「ん。なら良い」

スパナはパソコンのキーボードを叩くのを止めた。設定は終わった様だ。

綱吉が椅子から立ち上がり、コンタクトを受け取ろうとする。
しかし、二人の耳に爆発音が聞こえた。

「またジャンニーニ?」
「たぶん」

スパナは同僚の仕業だと肯定はしても、助けに行こうとはしない。座ったままだ。

「いいの?行かないで」
「阿近の声が聞こえる。今行ったらうちもどやされる」

薄情な奴だなぁ。
スパナの言う通り、阿近が何か言っているのが聞こえる。ジャンニーニはまたかと怒鳴られているらしい。暫くしたら正一の声も聞こえた。

「正一君も大変だ。またお腹痛くなるよ」
「今度の誕生日もうちは胃薬あげる」
「俺も」



二人は共犯の約束をしたかの様に笑った。







**********

彼を心配する技術屋



前へ 次へ

戻る

 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -