正直に言おう。
最初は油断していた。舐めていたと言っても良い。
武道派で知られている十一番隊の四席。それがあのような優男だとは、甘く見ていた。

すぐさまその考えを後悔したが。



「うっ…炎が…炎が来る……」

四人部屋の病室。まだ俺の隣でうなされている男。考えてみれば、この男が余計な事を言わなければ、十一番隊初日に皆仲良く四番隊送りにはならなかったのだ。そのままうなされていろ。

あの四席は、一撃で隊士を沈めていった。いくら新入隊士だと言っても、二十人を相手にしていたのに。
席官はあんな化け物ばかりなのだろうか。一撃だけでも攻撃を止めることが出来たのが、信じられない。

「…うっ……」
「おっ、大丈夫か?」

男が目覚めた。冷や汗がびっしょりの顔で、怯えたように部屋を見渡す。
勿論、男が恐れる四席の姿はなく、いるのは同室の俺と男を含めた四人だけだ。

「ちっくしょ…」

男は忌々しそうに舌打ちをし、起き上がって横に置いてあった水を一気に飲む。

その後、男は苛立ちながら押し黙っていたので、俺は他の同室の二人と他愛ない話をしていた。

もう二日が経っているので、俺は普通に起き上がる事が出来る。しかし、中には男のようにうなされている者もいるらしい。
その為か、大事をとって今日まで入院。一度勝手に抜け出したら、四番隊の隊士の一人に怒られてしまった。

『まだ退院許可は出ていません!勝手なことしたら、隊長が怒りますよ!隊長が怒ったらデンジャラスです!危険です!地獄の菩薩の笑みです!』

などと、訳がわからない事を言われた。しかし、四番隊隊長が怒ったら怖いとは皆が口を揃えて言うので、今は大人しく入院している。どうせ今日までの辛抱だ。

「おい…」

黙っていた男が口を開く。だが、談笑に混ざろうといる雰囲気じゃない。
男はにやりと笑う。その顔には好意を持てそうにない。

「あの四席をぶちのめさねぇか?」

嗚呼、この男は馬鹿なのか。
四席にぶちのめされたのは此方だろう。つい先日の事をもう忘れたのだろうか。
他の同室の奴も俺と同じ事を思ったのだろう、無理だ、止めとけと男を宥める。
しかし、男は引く気はないようだ。

「夜に一人でいんのを後ろから襲えばいいンだよ。酒飲んで酔っぱらっているところを複数で斬りかかればいくらあの四席だって…」
「俺はパスだ」

男が言い終わる前に、俺は言う。

「阿散井…裏切るのかよ」
「てめえと仲間になった気はねぇよ」

何故俺がこの男と仲良しの仲間だったように言われなければならないのだ。ほとんど話したこともないのに。

「そんな卑怯な真似して、何になんだよ」
「てめえ…あんな風にコケにされてムカつかないのかよ!」
「別にあの四席はコケにはしてないだろ。それに、一瞬で伸されたのが悔しいだけだ。恨むのは筋違いだろうが」

あの四席は、一人で俺達を相手にしていた。
一緒にいた三席はただ見ていただけで何もしていないし、姑息な手も使っていない。刀も使わず(あの白打のような戦い方が戦闘スタイルなのかもしれないが)に戦っていたのだ。
つまり、この男の逆恨み。それに付き合う気はない。

他の隊士も同意見のようだ。男の誘いには乗らない。もっとも彼等はあの四席を敵に回したくないだけかもしれないが。

男はそれが面白くないようだ。立ち上がって同室の一人の胸ぐらを掴む。

「この腰抜けが!てめえみたいな弱い奴なんざ、十一番隊にはいらねぇんだよ!」

一番最初に四席に伸されて、未だにうなされている奴が何を言うか。
流石に止めようと腰を浮かせる。
しかし、結果から言えば、男を止めたのは俺じゃなかった。



「いやぁ、相手との実力差を認めて引くことも、強さだと思うよ」



噂をすれば影。
聞こえた声に振り返れば、四席が当たり前のように病室の入り口のドアに寄り掛かって立っていた。
男は掴んでいた胸ぐらを放す。顔が面白いくらいに真っ青だ。

「あと、何で十一番隊に必要かどうかを、お前が決めてるんだ?」
「よ、四席……いつから……?」

男は寝ていた時よりも大量の冷や汗を流している。それはそうだろう。恐怖の対象が目の前にいるのだから。
対する四席は、満面の笑みを浮かべている。しかし、怖い。すぐさま逃げたい。自分に向けられている訳ではないのに、此方まで冷や汗が出てきそうだ。

「ん?ついさっきだよ?夜に斬りかかろうなんて、俺は知らないよ?」

ばっちり聞いていたらしい。それでも今まで出てこなかったのだから、俺らが何て答えるのか待っていたのだろう。
まったく、いい性格してる…。

「あ、話続けて良いよ?ごめんねぇ、邪魔して。上司がいたら話しずらいかな?」
「いえ、その…」
「話が終わったら言ってね?誰を病院送りにすればいいか分かっておいた方が、仕事振り分ける時に楽だから」

四席は、笑顔のまま退室した。あの笑顔に声を掛ける勇気は、誰にもなかった。

胸ぐらを掴まれていた隊士は、男の肩をポン、と叩く。俺ともう一人の隊士も同じように叩く。同情はしない。自業自得だ。ただ、ほんの少しだけ憐れに思っただけだ。
男は魂が抜けたようだった。



しかし、あの四席は何しに来たンだ?





阿散井恋次と沢田綱吉がまともな会話をするのは、もう少し後のことになった。







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27777HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『番外編的な物』でした!


番外編とのことだったので、綱吉ではなく恋次視点で書いてみました!

因みにツナは恋次に会いに来ています。エンマとどんな感じだったのぉ、とか、一角が君に興味持ってるよぉ、とかを話しに来たのですが、結局帰りました。
病室に着く前にハルに見つかって「また病院送りですか!」と怒られていたり。
そんなことを妄想(笑)


今回のリクエストは氷蓮様でした!
お待たせして大変すみませんでした!
リクエストありがとうございました!


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