カコォォォ…ン



鹿威しの音が庭園に響く。
庭園には川が流れ、小さな池では鯉が優雅に泳いでいる。手入れが等しく行き届いているその広大な庭園は、主の権力の強大さを象徴しているかのようだ。

庭園より広い邸にも、手入れは行き届いている。その一室では、二人の青年が向かい合い、淡々と話していた。

片や、この邸の持ち主である上流貴族の当主。片や、四大貴族にも数えられる名門貴族の当主。
二人とも表情が乏しく、談笑とはほど遠い。見ている方は息が詰まりそうだが、それぞれの後ろで控えている従者は慣れているようだ。背筋を伸ばし、主達の話し合いの邪魔にならぬように少し離れて座っている。

「――例の案件はどうなっている」
「あと二、三日って所かな。まだ叩けば埃が出そうでね。全てを明らかにさせて潰した方が良いだろう?」

邸の当主は楽しそうに笑うが、常人が見たらその場から逃げ出しそうな笑みだ。しかし、訪れている当主は毛ほども表情を変えることはない。

「では、今回の案件は以上か」
「そうだね。……哲」

邸の当主の短い呼び掛けに、従者は素早く行動に移す。
哲と呼ばれた強面のリーゼントの男がすっ、と入り口を開ければ、茶の湯一式が用意されていた。それらが運び込まれ、何一つなかった部屋は美しい庭園が見える憩いの場へと早変わりする。

その動きを一目見るだけで一流の名人でと分かる老父が、慣熟した手つきで茶を立てる。

「茶菓子もいるかい」
「いや」
「だろうね、君は昔から甘いのは好きじゃなかった」

邸の当主――雲雀恭弥は相手から視線を外して庭園を見る。

「そう言えば……」

雲雀は興味なさげに、ふと思った、他意などないとでも言う風に言った。

「『あの子』は、甘いのは好きなのかな?」

雲雀の言葉に、相手――朽木白哉の顔が変わった。眉間にシワを寄せ、それまでは見られなかった表情を見せる。

「ルキアのことは、そなたには関係ない」
「僕はあの子と言っただけだよ」

白哉のシワが深くなる。常に冷静な彼には珍しい失言だった。
それを横目で見ていた雲雀は、呆れたようにため息をついてから顔を白哉に戻した。

「先月に養子をとったのは知っていたけど、どういうつもりだい?」
「……貴様には関係ない」
「そうかい。護廷十三隊に入った後も手を回しているようだから、気になって調べさせてもらったよ」
「……」
「流魂街出身、その詳しい出身地。何よりあの容姿。…まさか彼女の縁者が見つかったとはね」

白哉は鋭く雲雀を睨む。しかし、雲雀はむしろ楽しそうに顔に笑みを浮かべている。

「邸の使用人に厳しく口止めしてまで秘密にしているみたいだけど、『彼女』に頼まれでもしたのかい」
「……もう一度言う」

白哉にはもはや怒気を隠すつもりはない。部屋にいる従者は先ほどから冷や汗を流している。

「貴様には関係ない。朽木家のことに、口を挟むような真似は止めて頂こう」

丁寧な口調でも、それには有無を言わさぬ迫力があった。
どれほど周りの人間が長く感じても、二人が睨み合ったのは数秒だっただろう。



カコォォォ…ン



静まり返った部屋には、鹿威しがよく響いた。
それを期に、雲雀は再びため息をつく。彼にとって、一日にこれほど何度もため息をつくのは珍しいことだった。

「……秘密は何時か漏れる。その前に、自分で言うことを薦めるよ」
「……それは、望みに反する」

白哉は音もなく立ち上がり、雲雀に背を向けて入り口へと足を進める。

「秘密は、何時か漏れる。ならば、君から話した方がいいンじゃない?」
「……」
「まぁ、僕の考えを押し付けはしないけどね」

白哉は一瞬だけ足を止めたが、すぐに部屋を出ていってしまった。
邸の使用人が客人の見送りをするために門へと向かうが、雲雀は動かない。庭園を無表情に眺めている。

「……珍しいですね。恭さんがあのような事を言うのは」

次の瞬間、彼から飛んできたトンファーで従者は気絶させられた。しかし、そうなることが予想できても、つい口にしてしまうほど珍しいことだった。
雲雀恭弥が、誰かの心配をするなど。

「……これは忠告だよ」

一人、雲雀は呟いた。その言葉を聞いた者は誰もいない。
彼の助言が意味のあるものになったかは、数年後まで待たなければ分からなかった。



カコォォォ…ン



鹿威しの音が響いた。







**********

18000HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『雲雀と白哉の絡み』でした。


本当はもっとリクエストがあったのは分かっています…。
日番谷や、雲雀邸殴り込みもリクエストにあったのです…。しかし、それだと文がめちゃくちゃになってしまったので、この二人だけになりました…。

本当にすみません!!
でも、雲雀さんが書けて楽しかったです!


今回のリクエストは紫紺様でした。
素敵なリクエストだったのに、二人しか登場せず、すみません…。
リクエストありがとうございました!



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